会社でもコミュニティでも、そして家族でも、リーダーの行動がどれくらい納得性を持って組織に受け入れられているかは、とても重要です。
例えばリーダーが誰かをえこひいきする、収入がないのにお金ばかり使う、言ったことに行動が伴わない、といった批判を受ける状態だと、組織の中での納得性は著しく低下します。不満は高まり、そもそも誰がこの組織を作ったのか、組織が存続できる理由、リーダーのリーダーたる苦労などはすべて置き去りにされ、一事が万事で不平不満に繋がります。
逆にリーダーが非常に合理的な行動を取っている時は、組織の結束は強まります。大抵の問題は些細なこととしてスムーズに処理され、人々の関心は未来の可能性に向きます。リーダーの判断に対して組織の信頼がある状態です。
そこに更に、構成員一人ひとりの懐具合やモチベーション等の要因が加わり、社会のコンセンサスを形成しています。
さて今回そのような話を取り上げた理由は、なぜシンガポールが魅力的な国なのかを論じる時に「強いリーダーシップのもとで超合理的な統治が行われている」ことが、一番人の心をとらえるからです。私がさまざまな日本人とシンガポールの魅力について語った経験上、多くの方がこの点に感心します。
日本人は特に、合理的な判断を苦手としています。うまくいっている時の非合理的な判断は美談となり得ますが、厳しい状況での非合理的な判断は反発を招きます。今、日本国内で抱えている問題の多くは、合理的な判断が出来ないことが理由となっているのではないでしょうか。政治しかり、企業しかり、家族しかりです。
その点シンガポール政府は、時に冷酷なまでに合理性を求めます。リーシェンロン首相自ら「外国人労働者はシンガポールにとって調整弁にすぎない」と述べるなど、シンガポールの発展のためにあらゆるものを利用する、という考え方があります。政府のクリーンさ、透明性、効率性などを追求する一方、犯罪者には厳しい罰則を課すなど、国民が納得できる仕組みを作り上げることに余念がありません。そして実際に国民の支持も高いのです。
国も企業も、調子の良い時もあれば悪い時もあります。シンガポールは今調子が良いから何でも優れて見えるのだ、という点も無くはありません。しかし、この不確実な時代の中で、「自分や会社の未来をどこに託したら良いか」と考えれば、合理的な判断をおこなっているリーダーのもとで活動することはとても重要です。何か将来に困難が訪れたとしても、このリーダーなら乗り切るだろうという安心感があるからです。
さてこのコラムを読まれている方も、多くは組織のリーダーでいらっしゃるかと思います。組織を常に右肩上がりで率いることは、誰しもなかなか難しいでしょう。しかしリーダーとして常に合理的な判断を下すことは出来ます。多くの小国がシンガポールのようになりたい、と思ってもなれない理由は、この徹底した国家運営にあります。景気の良い国や資源に恵まれた国はたくさんありますが、シンガポールほど合理的かつ徹底した国家はできないのです。
国も企業も、動かしているのは「人」。シンガポールの揺るぎなき合理性は、私たちの組織運営にも多いに参考になるのではないでしょうか。