おはようございます。
月刊「致知」4月号、伊與田覺氏の巻頭言より。

国を治めようと思うなら、まず己の家をしっかり治めなければなりません。
しかし、しっかりとした心掛けを持って臨まなければ、自分の家庭一つ円満に治めることはできません。

「大学」の中核となる三綱領の教えがあります。
一、明徳(めいとく)を明らかにする(各々が天から与えられている徳性を発揮する)。
二、民に親しむ(上に立つ者は民と一体感を感じながら治める)。
三、至善(しぜん)に止(とど)まる(絶対的な善にかなった言動をする)。
この三綱領は、大人(たいじん、人によい影響を及ぼす人物)となるための根幹です。

そして「大学」では、この三綱領の具体的実践方法が説かれています(八条目)。
一、明徳を天下に明らかにすること。
二、そのためには、まず自分の所属する国をしっかり治めなくてはならない。
三、国を治めようと思うなら、まず自分の家を斉(ととの)えることだ。
四、自分の家を斉えるためには、自分の身を修めることだ。
五、自分の身を修めるためには、内なる心を正しくすることだ。
六、内なる心を正しくするためには、感情を正常にする(意(こころばせ)を誠にする)ことだ。つまり喜ぶべき時に喜び、怒るべき時に怒るなど、喜怒哀楽を適切に表現できるようになることです。
七、感情を正常にするには、知を致す、つまり生まれながらに与えられている智恵を極めていくことだ。
八、そして知を致すには、物を格(ただ)す、つまり突き詰めて言えば、自分自身を正すことだと説かれています。

他人の顔はよく見えますが、最も身近な自分の顔は見えません。
ですから、自分自身を正すためには、常々心の内なる鏡に客観的に映して自らを省(かえり)みなければなりません。
その際、心の鏡が曇っていては自分が正しく映りませんから、いつも澄み切った状態でなければなりません。

天照大神も、鏡を見て知を致し、物を格せと説かれています。

「物を格して后(のち)知至る。知至りて后意誠なり。意誠にして后心正し。心正して后身修まる。身修まりて后家齊う。家齊いて后國治まる。國治まりて后天下平(たい)らかなり」
これは先ほどの文章を単に逆から言い直しているわけではありません。先の文章でものを考える順序を説き、今度はそれを実践する過程を説いているのです。
したがって格物致知(かくぶつちち)、自分自身を正して智恵を極めていくことこそが、治国平天下の根本なのです。

つまり、自分自身が正しくなれば、即(そく)国も正しくなり、天下も平らかになっていくのです。

いま、日本の国は混迷の極みにあるといえます。ともすれば上に立つ者に批判が集まりがちですが、こういう時こそ国民一人ひとりが格物致知という言葉を心に刻み、まず我が身を正していくことが肝要であると考えます。