3月は日本ではなかなか上演されないワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の公演が2つあったので、聴いてきました。

 

一つは新国立劇場での大野和士指揮東京都交響楽団によるオペラ上演(3/20)、もう一つは東京・春・音楽祭でのマレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団による演奏会形式上演(3/30)です。

 

新国立劇場の公演は14年前にやはり大野指揮で上演された舞台の再演で、前回の公演は2回聴きました。今回の公演も当初2回行くつもりでいましたが、全く同じ時期に春祭でも公演すると聞きやむなく新国は1回にしたところ、主役が2人とも代役になってしまって残念極まりません。

 

新国組の代役の2人(トリスタン=ゾルターン・ニャリ、イゾルデ=リエネ・キンチャ)は特に悪かったわけではなく、むしろイゾルデはこちらの方がよかったくらいですが、春祭組はトリスタン(スチュアート・スケルトン)を始め男性陣が圧倒的にすばらしくて聴きごたえがあり、ワーグナーはこうでなきゃという期待を満足させてくれるものでした。(春祭組に何か注文を付けるとしても、合唱の音量が大きく明瞭に響きすぎるというくらいです。)

 

そして春祭の主役は何と言ってもN響!!このN響の演奏があまりにすばらしすぎて、新国の都響は予習のようになってしまいました。新国ではオーケストラは狭いピットに押し込められ編成も限られているので、そのまま比較するのはフェアではありませんが、春祭では東京文化会館のステージ上いっぱいに配置されたオーケストラがこの音楽の魅力を隅々まで表現しきって圧巻でした。

 

N響は定期会員になっているのでどの程度の演奏をするオケかは承知しているつもりですが、それでもなおヤノフスキに厳しく鍛えられたN響がホントの本気を出すとこれほどまでに精緻・精密な演奏が可能なのかと、目が覚めるような演奏を繰り広げました。もう言葉もありません。

 

N響は毎年春祭でヤノフスキの指揮で長時間のワーグナーを演奏することで、二段も三段も表現力・持久力のレベルを上げてきたと思います。N響はヤノフスキに名誉指揮者の称号を与えてほしいくらいです。

 

この春祭公演が私の8回目のトリスタンになりました。改めて「トリスタンとイゾルデ」こそ西洋クラシック音楽のエベレストだと実感しました。自分の人生であと何回この傑作中の傑作を体験することができるのか、この音楽をどこまで深く感じることができるようになるのか、人生における重要度の順位がはっきりしたなと思いました。