主人公の平山が着ているユニフォームの「The Tokyo Toilet」は、映画用のフィクションではなく、実際に渋谷区で進行中のプロジェクトだと初めて知りました。

 

同名のウェブサイトによると、「トイレは日本が世界に誇るおもてなし文化の象徴。 渋谷区の17カ所で、順次公共トイレが生まれ変わっていきます。 それぞれのトイレには、 世界で活躍する16人のクリエイターに参画いただきました。 個性豊かなトイレをぜひご覧ください。」とのこと。そのクリエイターの顔ぶれが、安藤忠雄、隈研吾、伊藤豊雄、坂茂、佐藤可士和など有名どころがずらり。

 

かつ、単にトイレをイケてるデザインで作っただけでなく、「誰もが快適に利用できる公共トイレを維持するため、トイレそのものだけでなくプロジェクト全体をデザインしています。」ということで、そのメンテナンスや定期診断・評価にも力を入れているそうです。

 

そういえば、通常は透明で中が見えてしまうトイレが、中に入ってカギをかけると曇りガラスになって見えなくなる、というニュースをどこかで見た覚えがあります。(このトイレは映画の中にも出てきていて、代々木深町小公園トイレ(デザイン:坂茂)です。)

 

映画はそれらのトイレの清掃作業員である平山の日々を淡々と映しています。また、規則正しい生活であっても、毎日何かしらノイズがあり、そのことで過去のドラマが明らかになってきます。

 

映画のintroductionに「こんなふうに生きていけたなら」とあるとおり、規則正しく一日を過ごすことが精神の安定と充足感をもたらすというのは、そのとおりだと思います。とはいえ、平山の仕事がトイレの清掃作業員であることはこの映画の本質的な部分でしょうから、じゃあ自分もそうなりたいかと言われてもそこは全く共感できません。

 

つまらなくはなかったですが、誰の人生も一部を切り取ればおおむねこのようなものとも言えそうです。好きな本やこだわっている音楽もあるし、行きつけの飲み屋もあるし、それを役所広司がらしく演じても、特に心を動かされたというようなものではなかったです。石川さゆりの居酒屋おかみの歌にはしびれました。