これからの話は、全くもって個人的な話であり、思い込みの強い感想である。
従って、そのことを強く非難するわけでもないし、ましてや強要するものでもない。
ただただ、私の知る蕎麦の事を気ままに綴っただけの話です。

もともと蕎麦は、嗜好品と云ってもいいほどに個人の好みが強く反映する食べ物であり、
その色合いから始まり、切りの太さ細さ、茹での固め柔らかめの好みなど千差万別。
更に、器の形状から1人前の量、蕎麦猪口の形、色合い、蕎麦徳利云々。

蕎麦つゆにも一家言持つ方も多く、甘い辛いから始まり、量が多いの少ないの等々。
薬味についても、また様々なお声が。ねぎ、ワサビ、下ろし大根は定番であると思い込ん
でいる方は、けっこう多数。唐辛子、胡麻に始まり、あさつき、和辛子など多種多様。

そんな中から、今日は大根下ろしについて一言云わせていただきます。
そもそもそばの薬味としての大根下ろしは、ワサビの代用品として使用され、
辛み大根(ネズミ大根、戸隠大根などが該当)を添えたのが始まりです。

ちょっと問題なのは、大根は蕎麦つゆの味を換えてしまう事が多いと云う事。
せっかく手間暇かけて作り上げた蕎麦つゆの風味も香りも消えてしまいます。
ですから、和蔵では薬味に下ろし大根を添えません。

もう一言。
この頃では「おろし蕎麦」なるものがはばを利かせ、蕎麦屋の品書きなどでも
見かけるようになりました。

で、注文などして見ると、大抵のお店では、冷たいお蕎麦なら薬味皿とは別盛りで
たっぷりの大根おろしが登場します。温かいお蕎麦だと、雪見鍋と間違わんばかりの
これまたたっぷりの大根おろしがお目見え。

これは邪道です。と云うより、蕎麦屋の勘違いなのでしょう。
本来の「おろし蕎麦」は、別名「しぼり蕎麦」とも称し、
先述の辛み大根のしぼり汁を使用するのです。

信州では、その地形的、地理的な状況のため、良質な鰹節が手に入りにくかったことも
起因して、「蕎麦はうまいがつゆがいまいち」という現状でした。

鰹節を利かせた本格的な蕎麦つゆが出来ない換わりに考え出されたのが、
「おろしつゆ」です。蕎麦の実を練り込んだ焼き味噌にたっぷりの辛み大根の
しぼり汁を加え、好みの濃さでいただくと云う訳です。

焼き味噌にはいくつかのバリエーションがあり、蕎麦の実の他にも、
胡桃、柚子、胡麻なども登場します。その風味、香りとも、煮干しで取った出汁から
拵えた蕎麦つゆよりは余程美味しかったことを思い出します。

幼い頃から馴染んできた味と云う事もあるのでしょうが、
時折むしょうに食したくなるんですよね、和蔵爺さんの「おろし蕎麦」が。
私の好みは、胡桃味噌ですが...。