「なんか悲しいことでもあった?」
突然声をかけられ混乱している彼女に平然と質問をする彼
「だ、大丈夫っ…です」
頬を濡らす涙を雑に手で拭い、彼が誰なのかを思いだすのを止めて答えた。
「彼にフラれちゃった?」
彼が言った。
その言葉が胸に刺さる。
…痛い
それが事実だから、さらに深く刺さっていく。
途端に怒りと悲しさが込み上げ、また涙が頬を伝った。
「あなたには…関係ないでしょっ…」
そう、この人は関係ない。
なのに思わず当たってしまった。
怒る相手は彼ではない。怒るべき人は他の誰でもなく、彼女自身であることは分かっているのに。
またさっきのように声を荒げて泣く彼女をバツが悪そうに見ている彼が
「えっと…その、ごめん…」
歯切れ悪く謝る。
「大体、誰なんですかあなたっ!」
当たりたくないのに当たってしまう。彼女は心の中で彼に謝った。
「え、わかんない?」
と彼が言った。
まるで知っているのが当たり前の様に。
彼女は彼の顔をじっと見つめた。見れば見るほど端正な顔立ちだという事が分かる。
自分の知り合いにこんなイケメンはいない、と彼女は確信して
「わかんないです…」と言った。
その答えに彼はがっかりしたような、信じられないと驚いているような、そんな表情で彼女に問い掛ける。
「ほんとに?見たことないの?俺の顔」
「…はい。」
はぁー、とため息をもらす彼。
一体何なんだろうか、もしかして昔に会ったことがあるのだろうか、だとしたら凄い失礼なことを今言ってしまっているのではと不安になっていると
「俺もまだまだだなぁー」
と彼が言った。
―――俺もまだまだ?
「どういう意味ですか?」
「どういう意味って言われてもなぁ…あそうだ」
そう言ってポケットから黒い携帯を取り出す。
なんで携帯?と混乱している彼女に彼はテレビを見せた。
液晶に写る番組はどうやら最近放送されたドラマらしい、彼女はその中の一人をみて目をみはる。
そして携帯を持つ彼を見る。
「…え!? もしかして…この人ってあなたですか??」
液晶に写る主演らしき男性を指差してここに写っているのはあなたですか、という日常会話ではあまり使わない質問をした。
その質問を聞いて彼は満足げに頷いた。
「そ、それ俺だよ。聞いたことない?"黒崎翔"って」