古代中国の女性たちは、現代の私たちが想像するよりもはるかに厳しい社会的制約の中で生きていた
特に漢〜三国時代頃から儒教の影響が色濃くなり、徐々に女性への束縛が厳しくなっていった
男性中心の封建社会では、女性の役割は家族の名誉を守り、貞節を保つことが最も重要とされ、その人生は「父に従い、夫に従い、子に従う」という一連の従属関係に縛られていた
しかし、こうした社会規範を外れたり、法律に触れたりした場合、女性たちは容赦ない刑罰の対象となることがあった
その中でも「杖刑(じょうけい)」は、刑としては重くなかったが、精神的な屈辱を伴う刑罰として、女性にとって極めて過酷だったという
杖刑を受けることで、女性の名誉は完全に失墜し、社会的な死を宣告されたも同然だったのだ
なぜ杖刑は、当時の女性にとってこれほど過酷だったのだろうか
杖刑とは
杖刑(じょうけい)とは、罪を犯した者の背中や臀部を、杖や竹板で叩く刑罰である
いわゆる「お尻ぺんぺん」だ
中国には古代から「五刑制度」というものあり、国や民族、時代によって5つの刑罰の中身は様々である
共通して言えるのはどの時代においても最も重い刑罰は「死刑」ということである
杖刑の歴史は古く、前漢時代にはすでに存在していたとされる
基本的には命には別状がないことから、どの時代においても最も軽い部類の刑罰である
隋唐時代以降、杖刑は五刑の一つとして正式に制度化され、軽犯罪に適用された
打たれる回数も、罪の重さに応じて決まっていた
例えば、唐代の歴史家・杜佑(とゆう)によって編纂された歴史書『通典』には、以下のように回数が記されている
其制罪:一曰杖刑五,自十至五十。
意訳 :
杖刑には五段階があり、10回から50回の打撃が科される。
出典:『通典』「刑法二」
明代では3尺5寸(約1メートル)、清代では5尺5寸(約1.8メートル)の竹板が使用されるなど、時代によって道具にも変化があった
また、杖刑は単に犯罪者を罰するだけでなく、社会全体への警告としての役割も担っていた
罪を犯した者を公衆の面前で罰することで、他者への教訓とする意図があったのだ
そのため、社会的な羞恥心を与える公開刑でもあった
これが男性ならまだしも、女性であればどうだろうか
女性にとって耐え難い屈辱
女性にとって、杖刑は名誉や社会的地位を一瞬にして失わせるものだった
刑罰としては軽いとはいえ、執行される際には衣服を脱がされ、臀部を晒さなければならなかったのである。
さらに公衆の面前で執行されることから、「貞操」を重んじる古代の価値観においては最も耐え難い屈辱であった
杖刑を受けた女性は、その後も社会からの侮蔑や孤立に苦しむことが多く、自ら命を絶つ者も少なくなかったという
また、杖刑の影響は受刑者本人にとどまらず、家族や地域社会全体にも広がった
女性が杖刑を受けることは、家族全体の名誉を汚す行為とみなされ、家族が社会から孤立することもあった
そのため、家族が受刑者を事実上追放するケースや、家族内での関係が崩壊する事例も見られた
女性受刑者は単なる犯罪者としてではなく、社会的な「恥さらし」として扱われたのである
経済的格差と男女の差
また、杖刑の執行には経済的な格差も大きく影響していた
清代の『獄中雑記』には、賄賂や贖金によって刑罰が軽減、または回避された具体的な例が記されており、裕福な者は軽い打撃で済ませられた一方、貧しい者は過酷な打撃を受け、深刻な後遺症や死に至ることもあったという
一方で、一部の男性にとっては、杖刑が「名誉」とされる場合もあった
特に直言を行う官僚たちは、皇帝の怒りを買い、杖刑を受けることで「忠臣」としての名声を得ることができたからである
あえて、厳しい刑罰を受けることで忠誠心が証明され、民間からも高い評価を得ることがあったのだ
女性の例とは真逆である
このように、杖刑は「平等」という観点においても多くの問題を抱えていた
終わりに
杖刑は長い歴史の中で、罪に応じて科される刑罰として、法制度の一部を担っていた
しかし女性に適用される場合、単なる罰にとどまらず、実質的には名誉や人生を根底から揺るがすものであった
公衆の面前で屈辱を受ける杖刑は、女性にとって耐え難いものであり、その影響は生涯にわたったのだ
杖刑は清朝末期になると廃止された
社会が進化し、人々の価値観が変化する中で、人権を侵害する行為として認識されるようになったからである
杖刑の歴史は、単なる刑罰の記録ではなく、人間の尊厳や平等の意味を深く考えさせるものといえるだろう
参考 : 『通典』『獄中雑記』『文化杂谈』他
文 / 草の実堂編集部
(この記事は、草の実堂の記事で作りました)
辱めを受ける刑罰、公開刑は、ある意味では犯罪抑止もあったかもしれない
しかし、人権、尊厳、名誉などを傷つけるものだ
今の価値観では受け入れられないだろうし、個人的にも受け入れられない
私は中国へ短期留学したことがある
そんな私が感じた中国・中国人に嫌悪感は抱かなかった
ただし、中国人に「したたかさ」があるのも確かだ
本書の内容に書かれていることも一面ではあるかもとは思った