ベラ・C・ルービン天文台がもうすぐ完成、「すべてが巨大」、世界最大32億画素カメラも
地球上から無数の望遠鏡が夜空を観測しているにもかかわらず、地球の周辺にはいまだに姿がとらえられていない未知の天体が数多く存在している
しかし間もなく、それが変わろうとしている
南米チリに建設中のベラ・C・ルービン天文台(VRO)は、これまで知られていなかった太陽系の大部分を明らかにし、天文学に進歩と革命をもたらすことが期待されている
驚異のエンジニアリングとソフトウェア、科学的な創意工夫から生まれたVROの目的は一つ
夜空全体を丸ごと記録することだ
「海王星まで、またその先に至るまで太陽系のすべてを記録した、かなり包括的な目録になるでしょう」と、VROと連携する米ワシントン大学の天文学者マリオ・ユリッチ氏は言う
確認される小惑星の数は、VROの運用が開始された直後に急増すると予測されている
1801年に最初の小惑星が発見されてから200年以上の間に、見つかった小惑星の数は100万個に達している
それが、VROによってわずか3~6カ月の間にこれまでの倍になるという
太陽系の外縁に存在するという説がある第9の惑星が見つかる可能性もある
「運用開始から1年以内に、何かがあるかどうかわかると思います」と、ワシントン大学の天文学者ペドロ・バーナディネリ氏は話す
ほかの星系からやってくる恒星間天体の発見にも期待がかかる
異世界の星の破片であるこうした天体は、「ほかの惑星系の様子を教えてくれるでしょう」とユリッチ氏は言う
VROは、2025年から10年間観測を行い、太陽系の新たな百科事典を天文学者たちにもたらす予定だ
「これによって、わが銀河系のゆりかごである太陽系の起源や進化に関して理解が深まるでしょう」
英国の北アイルランドにあるクイーンズ大学ベルファストの天文学者で、VROと連携するメグ・シュワンブ氏も、「歴史を書き換えることになると思います」と話した
全てを見渡す目
VROは、ダークマター(暗黒物質)の存在を明らかにした天文学者にちなんで名づけられた
全米科学財団(NSF)と米エネルギー省の共同出資により、標高約2700メートルのセロ・パチョン山頂に建設されている
あらゆる宇宙の謎に挑むべく設計された最先端の天文台は、まさに科学機器の怪物だ
「ルービンは、すべてが巨大です」と話すのは、建設の副主任を務めるサンドリーン・トーマス氏だ
「超高速で動かせる望遠鏡に、超巨大で精密なカメラ。検出器も非常に大きく、画素数も莫大です」
ほとんどの天文台は、一度に空の隅々まで見渡せる広い視野か、より多くの光を集めて遠くの暗い天体を明らかにできる巨大な鏡のどちらかしか持っていない
しかし、画期的なエンジニアリングによってその両方を併せ持つことに成功したVROは、南半球から見える空全体を10年にわたって追跡し、あらゆるところのあらゆる天体を観測することができる
ベールの向こう側
VROの発見の大部分は、火星と木星の軌道の間にある小惑星帯でなされると考えられている
「小惑星帯は、惑星が形成された際の材料の残りかすが集まったものです」とシュワンブ氏は説明する
なかにはそこそこの大きさで地球に近い軌道を持つ小惑星もあり、将来地球に衝突する危険性もないとは言えない
これまでの観測には引っかからなかったとしても、VROであれば、そのような小惑星を多く見つけてくれるかもしれない
事前に発見できれば、壊滅的な衝突を回避するために何らかの手を打つことができる
地球軌道の内側にも、金星の近くに宇宙岩石が多く集まる場所が存在するとの仮説があり、ここでも新たな発見があるかもしれない
小惑星帯の内側だけでなく、外側にあたる外太陽系の構造も、初めて明らかにされる可能性がある
木星と土星の未知の衛星を発見したり(環を持つ惑星として有名な土星の衛星は、現在146個確認されている)、遠方から飛んでくる彗星も、こちらに近づいてくるはるか以前から検知できるようになるだろう
ごく一部の巨大彗星を除いて、ほとんどの彗星は太陽にかなり接近するまで見つからない
氷の塊である彗星は、太陽の光が当たる小惑星帯の内側に入ってくると熱によって温められ、氷の粒が剥がれ落ちて長い尾を引き、見つけやすくなる
誕生後初めて太陽に向かって飛来する彗星が、まだ遠くにいるうちに発見できるようにすることは、天文学者たちの長年の夢だった
太陽系の黎明期からの、手つかずの記録がそこには残されているためだ
十分早い時期に見つかれば、太陽の熱で温められる前から彗星を追跡し、「探査機を送って間近で観測することだってできそうです」とシュワンブ氏は話す
さらにVROは、「太陽系に惑星はいくつあるのか」という難問にも挑戦する
10年ほど前から、冥王星のはるか先、太陽系の外縁に奇妙な軌道を持つ天体があり、そのなかに海王星と同程度の大きさの惑星が隠れているのではないかという仮説が立てられてきた
既存の望遠鏡ではそこまで遠い世界を見通せない
しかし、もし本当に第9の惑星が存在すれば、VROはそれを見つけ出せるはずだ
太陽系外からの訪問者
2017年、天文学者は観測史上例を見ない驚くべきものを発見した
別の恒星の重力を振り払ってやってきた恒星間天体オウムアムアだ
平べったい形をしたオウムアムアは驚異的な速さで太陽系に侵入し、去っていったため、天文学者たちはわずか数日しかそれを調査することができなかった
そして2019年には、第2の恒星間天体であるボリソフが見つかった
今のところこの2つしか発見されていないため、恒星間天体がどのような性質を持っているのかについてはほとんどわかっていない
しかし、VROなら年に数個は恒星間天体を発見できると予測されている
ほかの恒星系からやってきた天体には、太陽系とは異なる恒星や惑星環境のなかで形成された物質が含まれている
「銀河系全域の恒星系における、惑星の形成過程を示してくれるサンプルなのです」と、ニュージーランド、カンタベリー大学の天文学者ミシェル・バニスター氏は語る
VROが持つ最新鋭の目は、様々な色の天体を見分けることができる
つまり、はるか遠くにある恒星間天体を見つけるだけでなく、それらが何でできているかも把握できるということだ
VROが大まかにめどを付けた場所を、視野がより狭く、拡大撮影能力が高い別の望遠鏡を使ってより詳細に調べるという使い方もできるだろう
(この記事は、NATIONAL GEOGRAPHIC日本版の記事で作りました)
観測技術の進歩は凄まじい
現在運用されている最新・最強のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は多くの新発見・謎の解明をした
今後予定されているベラ・C・ルービン天文台(VRO)はそのJWSTの性能をはるかに凌ぐ超高性能な望遠鏡が備えられる
JWST以上の多くの新発見が期待される「怪物」望遠鏡だ
天体観測の基本がわかる入門書
アマチュアの天文観測者でもチャンスがあれば「新発見」に遭遇できるかも