少し前から大手による大規模改修のからくり、マンションがだんだんと増え10年そこそこで大規模改修を迎える。もちろん管理組合も修繕計画などをいただいていても改修費はかさみ、積立金の増額などを強いられるケースもよくある。現在大規模修繕工事は内容が似たり寄ったりの内容
職人さんを抱えているわけでもないので、A社の工事もB社の工事も同じ職人さんが来る可能性もあり、専属的な人もいますが、大手会社になれば誰が来るか、きちんとした施工ができる職人かなどは会社側はわからないことも当然。工事も皆、ある程度の流れもある。
工事量、金額 大きい物件は自分らとは違い桁違い
今後どう推移していくのか
日経ビジネスより引用
マンションの大規模修繕工事を巡るパンドラの箱が開いた。公正取引委員会は2025年3月4日、関東地方でのマンションの大規模修繕工事において独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いがあると見て、施工会社約20社に立ち入り検査を実施した。修繕工事を巡るこの入札談合疑惑について、不動産コンサルティング会社、さくら事務所(東京・渋谷)のマンション管理コンサルタント・土屋輝之氏が実態を赤裸々に語った。
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――施工会社への公取の立ち入り検査をどう受け止めていますか。
「とうとう来たるべき時が来たと感じました。マンション修繕の入札談合は私がこの業界に入った20年前には既に存在し、業界内では『暗黙の了解』でした。一部を除き、多くの企業が関わったことがあるでしょうし、実際に関わった人から何度も話を聞きました」
「業界の問題として情報発信に努めてきましたが、公取などが動かない限り浄化はされないだろうと諦めていました」
土屋輝之(つちや・てるゆき)氏 1957年生まれ。複数の不動産会社で仲介や新築マンション販売、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを経験後、2003年にさくら事務所入社。マンション管理組合向け業務の立ち上げを担当する(写真=さくら事務所提供)
――入札談合や価格調整はどれほど行われているのでしょうか。
「統計的な数字は分かりません。ただ、マンションの診断・設計・工事監理を設計コンサルタントや設計事務所、管理会社などが専門家としてサポートする『設計監理方式』の大規模修繕工事では、大半で入札談合や(施工会社から設計コンサル・管理会社などへの)バックマージンの支払いがあると見てよいと思います」
「それほどまでに常態化しているのです」
(編集部注)国土交通省が2021年に大規模修繕工事の設計コンサルタント業務や施工を受注した企業に行ったアンケート結果では、全体のおよそ8割で「設計監理方式」が採用されている。
マンション管理組合は工事の設計・監理を管理会社や設計事務所などに依頼する一方、実際の工事は施工会社に発注する(イラスト=さくら事務所提供)
積立金のうちバックマージンに回る金額は
――設計監理方式のマンション修繕工事で入札談合や価格調整が行われた場合、管理組合にはどういった影響がありますか。
「大規模修繕工事の費用が必要以上に割高になり、経済的な損失が生まれてしまいます。具体的な手口は後ほど説明しますが、施工会社が設計コンサルや管理会社に多額のバックマージンを支払うからです。本来必要な工事費におよそ1〜2割上乗せされていると思います」
「国土交通省が17年に出した『設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)』でも、発注者であるはずの管理組合の利害に反する方法で受注調整をする設計コンサルタントの手口が紹介されています」
「築12〜15年目の10階建て100世帯、外壁が総タイル張りのマンションで、1回目の大規模修繕工事をやると仮定します」
「安く見積もっても、管理組合の修繕積立金から拠出する工事費は、1億5000万円ほどになります。このうち1〜2割である1500万〜3000万円が、設計コンサルや管理会社へのバックマージンに充てられていることになります」
「全国の管理組合で修繕積立金の不足が問題になっている今、それだけの金額が本来払う必要のないバックマージンになっている。ここが問題の根幹です」
「バックマージン自体は百歩譲って容認したとしても、割合が1〜2割というのはあまりにも大きすぎます。何より管理組合の知らないところで業者がグループ化し、恣意的に価格調整し、非公式に受注を決めているのです」
国交省の調査に応じた管理組合の3分の1超が長期修繕計画に対して積立金が足りないと回答。価格調整により工事費がつり上げられているならば、積立金不足に拍車をかける要因となる
施工会社と設計コンサルが結託して「出来レース」
――設計監理方式で行われる入札談合や価格調整の手口はどういったものですか。
「一般的に、大規模修繕工事をすると決まったら業界紙などに工事の情報を載せて施工会社を募集します。施工会社は工事の情報を見て応募し、管理組合は複数の施工会社の見積もりなどを確認して最適と判断した発注先を選びます」
「公正な選び方に見えますが、裏では複数の施工会社と設計コンサルがグルになっていて、決まった施工会社が工事を落札できるよう価格調整する『出来レース』が行われているのです。管理組合に伴走する設計コンサルや管理会社なども入札で決まりますが、多くの場合、施工会社からのバックマージンの収入を前提にしているので、管理組合に提示するコンサル料金は格安です」
「当社は施工会社からバックマージンを受けないため、コンサル料金は高い印象を持たれることが多く、以前は管理組合への営業活動に苦労しました。社歴も知名度も当社を上回る大手の設計コンサルが、当社の半分ほどの相場を提示したら勝ち目はありません」
「管理組合に属する住民にマンション修繕の専門家はほとんどいないでしょう。いわゆる『素人』が数千万〜億円単位の工事を発注することはめったにありませんよね。業者がグルになって入札談合をしていると見破るのは困難です」
「前述の通知が国交省から出た影響もあり、最近は管理組合側のリスク意識も高まってきましたが、それに合わせて談合や価格調整のスキームも巧妙化しています。以前はもっと露骨な手口も見られました」
――と、いうと。
「マンションの大規模修繕では、工事を発注する前に設計コンサルや管理会社が建物の傷み具合などを調べる診断を行いますが、一部ではグルになっている施工会社に診断させるのです。国交省も警鐘を鳴らしています」
「工事を受注する予定の施工会社が、その工事を請け負う予定ではない他の施工会社に代わってダミーの見積もりを作っていたこともありました。足場の面積や警備員の人数など、施工会社によって見積もりの中で差が出るはずの数字が不自然に同じだったことで発覚しました」
管理組合が不正を見破るのは困難
――不正に加わらない新規の事業者が現れれば競争が生まれるのではないですか。
「施工会社の間で新規の事業者を排除する仕組みもあるのです。先ほどお話ししたように、修繕工事を実施する際には業界紙などを通じて施工会社を募集しますが、この際に資本金や過去数年間で実施した大規模修繕工事の件数、技術者の在籍数などで不必要に厳しい条件を付けるのです」
「資本金が数千万円の施工会社でもできる工事なのに、『資本金のある大きな施工会社じゃないと倒産するリスクがある』などと管理組合側の危機感をあおり、施工会社の応募条件に『資本金1億円以上』と書き加えさせるのです。これが参入障壁となります。20年以上も前から行われています」
――管理組合は、どうすれば入札談合や価格調整を防げますか。
「まず無理でしょう。管理組合の中にマンション管理や建設の専門家がいれば見積もりから見破れるかもしれませんが、そうでなければ非常に難しいです。管理組合が自分たちで施工会社を比較・検討して発注できればリスクは下がるかもしれませんが、狭い業界なので施工会社同士でつじつまを合わせる可能性は残ります」
――今回の立ち入り検査の影響をどう見ていますか。
「影響は相当大きいと思います。実際に入札談合や価格調整をしていたとなれば、数年間は仕事を取りづらくなるでしょう。経営陣の責任が問われますし、記者会見などで情報公開する姿勢が求められます」
――公取は施工会社への立ち入りの次は、設計コンサルや管理会社への検査も視野に入れています。
「入札談合や価格調整をしていた設計コンサルや管理会社は、それまでバックマージンで得ていた1〜2割の利益が突然なくなります。当然経営は厳しくなってくるでしょう」
(日経クロステック 馬塲貴子)