あんたは払うよ、権藤さん。の真意 -53ページ目

あんたは払うよ、権藤さん。の真意

ご来場いただきまして誠にありがとうございます。「その1」などと付してある記事は続き物になっていますので、数字の若い順にご一読いただけると幸いです、としていたのですが、最近、数字入れ忘れてました。ごめんなさい。では、そろそろ開演です。Oh, yeah! Play it loud!

そのトレーナーの青年は、全く容赦しない男であった。


いきなり、「スタンスが狭いっ!!!」と一喝してきた。

え?こんなもんじゃないの?

「駄目です。そんなに狭いんじゃ、素早く動けない」

ふ~ん。ベニー・ユキーデ(マーシャル・アーツ※キックあり)なんか、これ位だったと思うんだけど、ボクシングは違うのか...

「70年代のボクシングは今では通用しませんからねっ!!ぴょんぴょん飛び跳ねたら、跳ねた時に打たれますよ!!」

別に70年代を意識しているつもりはないんだが...それに俺はぴょんぴょん飛び跳ねるのはそもそも好きじゃないよ。


まあ、とにかく、彼は「全部駄目だ」と言う。「駄目」については枚挙にいとまがない。

あろうことか、私の自称『元・石の拳』と異名を取る左フックについても、

「そんなモーションじゃあ、こっちが打つ前に顔面打たれますよっ!!!」

と言ってきやがった。

言われてみると、確かにそうなんだけどさ...


キックの体験の時と偉い違いだな。

ったく、「ボクササイズのコースもあります」ってホームページに書いてあったぞ...

「え?ボクササイズ希望だったんですか?」

あら、聞こえちゃった?

いや、そういう訳じゃないんだけど、ホームページに書いてあるじゃん?

「あー、そーですよねー。でも俺、ボクササイズは知らないから、教えられないんだよな~」

...

しかしながら、全部駄目だと私の名誉にもかかわってくるので、ほめられたことも書く。

ほめられたのは、「そもそも基礎体力はあるのでパンチは元々強い。スピードももっとある筈」だけである。その後に、「足腰が弱っているので(駄目)」が続く。


まあ、自分のことはどうでもいいや。


少々彼に教えてもらっただけで、彼のパンチが非常にズシンと重いことが解った。

当然だが、決して彼は、全力で打っているわけではない。

小突いているだけだ。

しかし、なんて重いんだ。

まるで身体の重心をそのまま飛ばしているような感じだ...


これはひょっとして...


私は意を決して彼に聞いた。

次女待望のボクシング・ジム体験の日曜日が来た。

その日はトレーナーはおらず、会長だけであった。


キックではしなかったバンテージ(包帯)を巻いた。

そうそう、バンテージしないと、その気にならないよな~

縄跳び、シャドー、パンチングボール、サンドバッグ、ミット打ち、ひと通り体験。


「いやあ~、お父さん、やったことあるでしょう?上手いね~パンチあるな~」なんて言われちゃって。

パンチがある(強い)というのは、大抵の人に言ってるんだろうけど、それでいいのさ。

この世は全てショー・ビジネスだ。


次女もご満悦で、その場で入会する意志を固めた。

さて、私だ...

どーするか?

この年でボクシングやるの?

でも実際にやるのはさ、ボクササイズみたいなもんだよ。ボクササイズってどんなことやるのか知らないけど。

それに、入会すれば、今後なんかのアンケートとかあったとき、スポーツ欄に堂々と「ボクシング」って書けるぞ...


「お父さん、娘さんと一緒の『家族会員』なら月○円でいいですよ」と会長は言った。

ん?『家族会員』なんてホームページには書いてなかったような...

まあ、いいや。この世は全てショー・ビジネスだ。

次女と私は「家族会員」ということで、割安の会費で入会することになった。


「今日はいないけど、普段はトレーナーもいますから」と会長は言った。


後日、ジムに行くと、複数のトレーナーがいた。

まず挨拶だ、挨拶。


しかしながら、挨拶したトレーナーのうちの一人の青年が、数日後、私が25年間インチキと信じていたことを実行してみせることになろうとは、その時は夢にも思っていなかった。

キック・ボクシングの体験が終わった。

私の気持ちとしては、次女が入るならついでに私も入っちゃえ、という気持ちであった。

「どーだい?ここでいいんじゃない?」と私は次女に聞いた。

「嫌だ」と彼女は答えた。

何で?

「私がやりたいのはボクシングで、キックじゃない!」

え~!?いいじゃん、キックで。蹴りがある方が運動としては良さそうじゃない?

「あしたのジョーは蹴ってないでしょ!?」

お前が言うな。お前がキックを紹介したんじゃないか。

では、ボクササイズやってるところ、カルチャースクールって言うの?、でも見つけてくれば?

「嫌だ。私がやりたいのはボクシングであって、ボクササイズじゃないっ!」

なんだよ~

じゃあ、今度こそボクシングのジム見つけてくれよ。

「キック」ってついてないのだからな。

また体験には付き合うからさ。


すぐに次女はボクシング・ジムを2箇所見つけてきた。

ひとつは知らなかったけど、もうひとつは、あ~言われてみればあそこのビルに入ってたよな~

後者の方が家から近いから、行くならそっちだな。

私は次女と再び体験に出ることになった。


インストラクターは続いて左フックの講義に入った。

1時間のうち20分ストレッチで、残りの時間で左フックまでやるの~?ちょっと無理じゃないか?と私は思ったが、向こうも商売だ。ジャブ、ストレートだけじゃ入会してもらえないんだろうな...


と、感心していたら、なんと今度はミドルキック(回し蹴り)をやると言う。

そっか、キック・ボクシングだもんな~でも、初めての人は、もう無理だと思うよ...


インストラクターは言った。

「じゃあ、まず、ミドルキックの構えはですね...」

続いて彼は私の娘を見て尋ねた。

「仮面ライダーの変身ポーズは知ってるかな~?その格好してから蹴るんだけど」


娘は微動だにせず即座に聞き返した。

「1号ですか?2号ですか?」

ふふ、私の娘を見くびったようだな。

彼は狼狽しながらも答えた。

「え?...っと、こういう感じなんだけど...」

「あ、1号ですね」と娘は言い、本郷猛の変身ポーズを執った。

青年よ、君がいけないのではない。相手が悪かっただけだ。

しかしながら、生半可な知識を披露するのは怪我のもとだぜ。


私にはミドル・キックは無理であった。

脚が全く上がらん。全てロー・キックになってしまう。


体験は、何とサンドバッグ打ちまでやった。

かなり気持ちのいいものであった。なるほど、入会のためにはサンドバッグ打ちは必要不可欠だな...

赤いパンタロン履いてやれば、ベニー・ユキーデみたいだし、蹴りもあるからボクシングより身体全体としてはいいんじゃないか。

それに自宅から近いしさ~

俺も入会しちゃおうかな。

そうすれば、「何かスポーツをやってますか?」と聞かれても、「キックやってます」と即答できて便利だぞ...

次女と私のキック・ボクシングの体験の日はすぐに来た。

自宅から歩いて5分もかからないところだ。

ふ~ん。キック以外にもヨガとか、いろんなことやってるのか~


受付を済ませ、着替えると、インストラクターが登場した。

現役の選手らしい。

「お父さん、今は何かスポーツはやってますか?」と彼はいきなり質問してきた。

今?スポーツ?

2年ほど前からゴルフをやってる。

私が石川遼選手なら、「ゴルフです」と爽やかに答えるであろう。

しかし私は石川選手ではない。

また、無理に爽やかに答えたら、後で次女に「キモイ」と言われるのは目に見えている。。

それに、練習場ならこまめに(誘われるので)行っているものの、コースに出るのは3~6カ月に一回くらいだ。

これを以て、スポーツをやっている、と言えるであろうか。いや、言えまい。

「何もやっていません」と私は答えた。

「何も?」

「はい。25年間、何もやってないです」

インストラクターの表情は「仕方ねぇ~な~」と言っていた。


体験は1時間で最初の20分はストレッチだった。

ああ、痛い。元々、身体は硬いが、更に固まっとるな。


「では、構えです。右の拳はここに持ってきて...」

インストラクターが言うままに、我々は構えた。

その刹那、彼は私を見て言った。

「お父さん!やってましたねっ!?」

あら、わかっちゃった?

でも四半世紀以上前のほんの短い期間さ。

嘘ついてたんじゃないぜ。「今は」と聞かれたので言わなかっただけだよ...

次女の私を見る目が、いわゆる尊敬の眼差し、う~ん他に上手い言い方が思いつかんな~、に豹変したことは言うまでもない。


その後、ジャブ(左のパンチ)、ストレート(右)と続いたが、その間、インストラクターは、私には「そうです!上手いっ!」以外は何も言わず、次女とその他の体験者を教えていた。

娘がいる方なら、私がいかに誇らしい気分でいたか、理解していただけるであろう。