そう、あれは小屋入りして本番当日の朝。
物語後半、詐欺師であることがバレた僕は割と胸のはだけた衣装で再登場する。
日本人ばなれしているという設定上、ある程度の胸毛なら効果的だったかもしれない。
が、僕のは中途半端に薄過ぎた。
しかもまばらだし…。
舞台上で肌を露出するときはムダ毛を処理する。
ごく当たり前のことで、ここ数年はしょっちゅうやっていたから慣れているはずだった。
「慣れているはずだった」
本番当日の朝。
さして時間に余裕のない朝。
気持ちも若干浮つき、気付かないうちに平常心を失っている。
そんな本番当日の朝…。
一番危険な状態だった。
そそくさと素っ裸になり風呂場の鏡の前に座る。
シャワーの温度が上がってきたのを確認してまずは洗髪を済ませる。
ボディソープを泡立てて胸全体にまんべんなく馴染ませていく。
T字カミソリの登場。
カバーを外す。
いつもはカミソリが当たる部分をちゃんと直視しながら剃るのに…。
いつもなら…。
若干寝不足で自分の顔色が気になっていた僕は、鏡越しになんとなく自分の全体像を見ながら右手に持ったカミソリを走らせていた。
しかも結構なスピードでせわしなく。
とその時…。
スカッ!!
そんな音が聞こえたような気がした。
慌てて手を止め、音がしたであろう場所に目をやる。
右乳首。
…気のせいか?。
ん?
少し滲みるかな…。
ジワァ…。
鋭利な刃物で素早く切った場所は血が出るまでに時間がかかるものだ。
プクゥ…。
ツツ~。
ようやく切られた事に気づいた右乳首が激痛と共に玉のような赤い涙を流し始める。
イッテェェェェェ~ッ!!!
泡滲みるぅぅぅぅぅ~っ!!!
大慌てでカミソリを放り出しシャワーで泡を洗い流す。
お湯も滲みるぅぅぅぅぅ~!!!!!
こうなると何をやってもダメだ。
一直線に体を伝う真っ赤な線も途切れることなく続いている。
まるで真っ赤な母乳。
泡を流してよくよく見てみれば、少し斜めに欠けちゃってるじゃないですか右乳首ちゃん!
誰に当たることもできない僕は、自分のそそっかしさを再確認しながら、慎重に慎重に風呂場を後にした。
大まかに右乳首以外の濡れているところをバスタオルで拭き、ティッシュを数枚重ねて優しく右乳首に押しあてる。
イッテェェェェェ~ッ!!
ハッハッハ~♪
ティッシュをあてている手から条件反射的に逃げようとする我が身に、痛がりながらも笑いが込み上げてきてしまった。
その姿のなんと痛々しいことか(笑)
なかなか止まらない赤い母乳の息の根を止めるべく絆創膏を血眼になって探す。
が、見つかったのはカリカリに乾いた板みたいな絆創膏が一枚きり。
なんでもいいから貼りたかった僕は、なりふり構わず板状の絆創膏を右乳首へ。
イッテェェェェェ(笑)
もう笑いが止まらない。
固いんだからあたりまえだ。
落ち着け俺。
冷静になった僕は、ティッシュを折り畳み、セロテープでとめた。
さすが俺。
母乳も底を尽きたようだ。
時間もないからこのまま行こう。
舞台初日、ほんのり右乳首の辺りが膨らんでいたのは僕だけの秘密だ。
因みに現在ではカサブタもとれ、欠けた部分も蘇生した。
スゲェな右乳首!
お前も生きてんだな!
これからはもう少し大事にするぜ♪
フゥ…。
携帯でこの長文は疲れるな。
全く、痛いね、俺ってば。
本日の画像は、どうしたら日本人ばなれできるか模索中の図。
