プロという肩書きなど語るには到底及ばないヨチヨチ歩きの駆け出しの頃。
あれは今から18年前、高校を卒業して劇団うりんこに入団して2年目の20才になる年だっただろうか。
舞台「おばあちゃんは宇宙人?」の小学6年生のいじめっ子役が初めての役だった。
ガチガチに力んで大声でセリフをガなることが芝居だと勘違いし、よく怒られながらも方法が分からず、相変わらず声を枯らしていたものだ。
元々同輩より先輩にくっついているのが大好きだった僕は、先輩だらけの環境が嬉しくてしかたがなかった。
その中でも一際金魚の糞のごとくつきまとっていた中にクモさんという大先輩がいた。
本名「三雲一三」。
初めての人はまず読めない。
「みくもかずそ」と読む。
通称クモさん。
今まで僕が付き合ってきたどの大人とも違った。
ヤクザな感じがなんだかカッコイイ。
旅公演では、クモさんと2人で2トン車を転がしていた。
そして初めての東京公演の時。
暑い夏だった。
滅多に足を踏み入れない東京公演を終え若干興奮状態での名古屋への帰り道、物凄く珍しくクモさんの方から飯に誘ってきた。
「土屋ぁ。お前、じゃあじゃあ麺て知ってるか?」
もちろん知らなかった。
「全然知らないです!」
「食ってみるか?」
「はい!東京名物ですか?」
「まあ、名物ってほどのもんじゃないかもしれんけど、せっかくだからな。」
「はい!」
嬉しかった。
いつも旅公演に出ると、クモさんが一人で呑んでいる居酒屋をつきとめて強引に席をご一緒させてもらうことが殆どだった僕には物凄く嬉しいことだった。
その店は下北沢の劇場ザ・ススナリに近い踏切の近くにあった。
踏切横の交番を少し気にしながらも「飯食う時間くらい平気だろ」と2トントラックを路駐してしまう豪快さにハラハラしながらもチョコチョコついて行く。
カラカラカラ~っとのれんをくぐる。
かなり古い店だ。
「まあ、俺がまだ東京の劇団にいたころな、まあ時々来てたんだ。」
憧れの先輩の知られざる過去の1ページ。
ゾクゾクした。
「おやじさん、じゃあじゃあ麺二つ。いいよな?」
「はい。」
暫くして出てきたのは、うどんより少し細い麺を茹で湯切りをして皿に盛った上に、ネギやキュウリを刻んだものが乗っていて、挽き肉を辛味噌と油で炒めたものが掛かっている。
決して物凄く珍しくも驚くほど美味しくもない。
が、妙に旨かった、本当に。
食べ終わった僕たちは、いそいそと店を出て東名高速へ向かった。
そんな店が建て替えもせず今もまだひっそりと頑張っている。
先日夕飯休憩の時、18年振りにのれんをくぐった。
ガーーー。
自動ドアだ。
厨房には背筋のピンとしたしかめっ面のおじいさんと若い男が二人。
僕の隣にはDotoo!で一番若い役者の片山くんが。
古~いメニューを見たら「じゃじゃ麺」だった。
壁に掛かっている油まみれのお品書きはあの頃のものだろうか。
18年振りの「じゃあじゃあ麺」。
一杯ひっかけたくなるほど懐かしい味だった。
いつか、地方から出てきた若造を連れて誘う機会がきたら言おうと思う。
「お前、じゃあじゃあ麺て知ってるか。」
今日も通し稽古でした。
明日も通し稽古。
役者を続けていられることに感謝します。
クモさん、ありがとうございます。
