その69:リンパ節腫大についての話 | 国家試験後の臨床 書籍化しました! (旧)研修医が学んでおくべき100のこと

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一人の内科医が研修医時代に書き溜めた記事を再構成しています。
全ての医療者にとって、医学を理解する手助けになれば幸いです。

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▼先に結論

・滑車上リンパ節は触知できれば異常

・リンパ節腫脹を認めた場合、局所性か全身性かで鑑別を考える

・縦隔リンパ節は気管支鏡で組織評価ができる

 

何となく診察で評価するリンパ節腫大ですが、その意味が分かると診察も多少やる気が出るかと思います。なんとなく決定打にかける感じがあるのですが、実際きちんと評価すれば診断上有用であることは間違いありません。基本的な内容になりますが、役立ててもらえたら幸いです。

 

ところで腫大と腫脹の使い方があまりピンと来ないのですが、腫大の方が広く使えそうなのでそちらに統一しました。癌は腫れませんしね。

 

 

1. リンパ節腫大の考え方

固くて動かなくて痛くないものが悪性腫瘍、柔らかくて可動性があって痛いものが炎症性とされます。悪性腫瘍では表面が不整ですが、悪性リンパ腫は表面が平滑であり、また可動性があるのが通常です。感染症でも、結核によるものでは周囲と癒着します。また鑑別に重要なのが年齢であり、原因不明のリンパ節腫大も高齢者であれば悪性腫瘍が見つかる可能性が高いとされます。

 

体表から触れるものには、頭頸部、腋窩、鼠径部、滑車上があります。基本的には1cm以上を腫大と取りますが、鼠径部は2cm、滑車上リンパ節は0.5cm以上を腫大と考えます。というか、滑車上リンパ節は触知できることがすでに異常であり、全身性リンパ節腫大を来す疾患を考慮します。

※上腕骨滑車の上にあるリンパ節です

 

リンパの流れを考えると、滑車上リンパ節が腫大していると言うことは前腕以遠の問題が示唆されます。それらの場所に感染や悪性黒色腫などがなければ、全身性リンパ節の腫大を考えます。これは一例ですが、リンパ節腫大を認めた時にはその流れに何らかの異常があるかを考慮し、無ければ全身性リンパ節腫大を考えます。

 

全身性か、局所性か!ということが鑑別上極めて大事です。解剖学的に離れた複数の場所が腫大している場合を、全身性リンパ節腫大と言います。リンパ節に限らず、細菌感染は局所におこるのに対し、ウイルスは症状が全身にわたることは知っておくべきです。例えば咳と鼻症状であっても、ウイルスなら同時に起こしてもいい(いわゆる感冒)のですが、細菌感染なら肺炎と副鼻腔炎が並存するような状況を考えます。咳と鼻汁と咽頭痛が揃う疾患はウイルス性上気道炎しかないとされます

 

従って全身性のリンパ節大をきたす感染症は、EB、CMV、HIVなどのウイルス性疾患が多いと言えます。細菌感染であれば、粟粒結核のように全身に病巣を作るものか、リケッチア、腸チフス、ブルセラ、野兎病菌といった細胞内寄生菌に限定されます。その他、原虫(トキソプラズマ)や真菌(日本では稀なヒストプラズマ)も含みます。

 

悪性腫瘍は近所から広がり、最終的には全身に及びます。一つの目安として、縮小傾向があれば悪性の可能性は低いというのは確かにそうですが、悪性リンパ腫では腫大リンパ節の縮小はしばしば経験します。疾患自体が自然治癒する報告もあるのですが、多くの場合増悪と改善を繰り返して最終的には悪化していきます。悪性腫瘍を疑うのであれば積極的に生検を考慮しますが、鼠径リンパ節は診断率が低く推奨されません。もともと大きいものが多く、病的腫大かの判断が難しいからでしょうか?

 

全身性リンパ節腫大をきたす疾患は悪性腫瘍、ウイルス感染のみではありません。覚え方としてCHICAGOというものがあり、順にCancer、Hypersensitivity syndrome(薬剤など)、Infection、Connective Tissue Disorder(SLEやRAなど膠原病、壊死性リンパ節炎)、Atypical lymphoproliferative disorders(Castleman病など)、Granulomatous(サルコイドーシス)、Othersです。薬剤でリンパ節腫脹を起こすことがあることは盲点で、その代表がアロプリノール、他に抗菌薬、メソトレキサートなどが記載されています。メソトレキサートはリンパ増殖性疾患(つまりリンパ腫みたいなもの)をきたすことがあるので、区別されるべきでしょう。

 

膠原病でリンパ節が腫大するの?というのは意外かもしれません。リンパ節腫大の重要な鑑別疾患である壊死性リンパ節炎は、基本的には予後良好ですがそのうちの3%程度はSLEに進展するとされます。このイメージからSLEでもリンパ節が腫大するというイメージを持てるかと思います。

 

1cmを超えていなくても、多数のリンパ節が顕在化していれば異常と取るべきかと思います。リンパ腫などでは大きいのですが、TAFRO症候群では小さめのリンパ節腫大が特徴です。希少疾患なので簡単に鑑別疾患とするのも問題ですが、いつもと違う雰囲気に「おや?」と思うことは大切です。

 

 

2. 頭頸部リンパ節

ここはまとめだすとキリがないので、(僕自身を含めた)初学者向けに考えてみることにしましょう。これは僕自身がアバウトに考える時に使っているやり方なので、もっときちんと考えたい方は以下を参考にしてください。

Neck dissection classification update: revisions proposed by the American Head and Neck Society and the American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery.

 

グループ1:顎の下

※まぁ知ってますよね

 

顎の真ん中下をオトガイ下部、それ以外を顎下部リンパ節と記載します。これらは口腔内のリンパ流を反映しているため、扁桃炎や歯肉炎などでよく腫れます。悪性腫瘍としては舌癌などの頭頸部癌を反映します。結核や、伝染性単核球症、壊死性リンパ節炎でのリンパ節腫脹の後発部位です。ちなみに伝染性単核球症は大半がEBV感染によりますが、CMV、HIV、トキソプラズマ感染でも同様の症状を呈することがあります。HIVは特に予後に関わるので、原因不明の頸部リンパ節腫脹では鑑別にあげる必要があります。

 

 

グループ2:後頸三角

※5秒で描いた

 

僧帽筋前縁、鎖骨、胸鎖乳突筋で区切られた区域を指します。ここも①のグループと鑑別は大きく変わらないのですが、胸鎖乳突筋はその前面と後面にそれぞれ浅頸リンパ節、深頸リンパ節があることは知っておくべきです。個人的には頸部が腫れてる患者なのにリンパ節がうまく触れず、CTを撮ったら深頸リンパ節がパンパンに腫れていた壊死性リンパ節炎を経験したことがあります。OSCE習う、掘るように触診しましょう、というのは確かに正しいのだなと反省しました。

 

有名な胃癌のVirchow 転移を示す、左鎖骨上窩リンパ節もこのグループに入ります。それに限らず、鎖骨上窩リンパ節は大きさ問わず悪性腫瘍であることが多いです。感染症としては結核などを疑います。

 

 

グループ3:耳の前後

ここは頭部や後頸部のリンパ流を反映しますから、腫大を認めることは比較的稀です。ここでは耳の前と後、一つずつ疾患を覚えておいてください。耳介前部が流行性角結膜炎、耳介後部が風疹です。リンパの流れを考えると、口腔内感染症でここが腫れることはないはずなので、ここの腫大がある場合は全身性リンパ節腫大をきたす疾患を鑑別と考えるべきでしょう。

 

 

3. 縦隔リンパ節腫大

縦隔リンパ節は結構特殊なものが含まれます。もちろん、最も多いのは肺癌でしょう。しかし胸部食道癌でもここに転移を起こすことがありますから、肺野に異常がなければ鑑別対象になります。その他に多いのはリンパ腫ですが、個人的には大腸癌の縦隔リンパ節転移も経験があります(結構報告はあるようですが、一般化するようなものではありません)。

 

良性疾患として、有名なのはサルコイドーシスです。また単中心性キャッスルマン病では大半が縦隔に限局した病巣を作ります。(比較的有名な)不明熱の原因となる多中心性キャッスルマン病が有名ですが、こちらは無症状のことも多いです。ちょっとだけ触れたTAFRO症候群の類縁疾患であり、同様の病理所見を呈するのですがALP高値を認め、高ガンマグロブリン血症を認めない点で鑑別されます。またIgG4関連疾患の好発部位でもあります。

 

縦隔リンパ節の生検は気管支内視鏡的に可能です。超音波内視鏡を用いて病巣を穿刺するのですが、針で刺すわりに検体量が取れるので組織診まで行うことができます。これを知らないと「こんな場所生検できないよ…」となってしまうので重要です。呼吸器内科に依頼しましょう(EBUS-TBNAという手技ですが、案外やっていない施設も多かったりします)。

 

 

ということで、本日の記事は終わりです。滑車上リンパ節とか学生時代に習った覚えがないのですが…まぁそんなものかと思います。