その37:心電図を理解する ①心臓の解剖と誘導 | 国家試験後の臨床 書籍化しました! (旧)研修医が学んでおくべき100のこと

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全ての医療者にとって、医学を理解する手助けになれば幸いです。

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▼先に結論

・洞結節が出す指示を、房室結節がうまく伝達する役割を担う

・肢誘導と胸部誘導は生理学的に理にかなった評価法である

 

 

国家試験もある程度進むと、心電図の問題はほぼ解けるようになってくると思います。個人的にも、心電図は読めるだろうとタカをくくっていたのですが、いざ臨床に入るとあまりに読めずに頭を抱えました。一番悩んだのが、目の前の心電図が正常なのか異常なのかわからない、ということでした。

 

心電図の教科書はどれも分厚いですが、それだけ理解するのが大変ということです。それを短いブログ記事にまとめてしまうことは不可能なので、こんな風に心電図を理解してみては?というヒントを出すに止めます。説明が長くなりそうなところとか、マニアックなところはどんどん割愛していますがご了承ください。

 

そうは言っても、学生の頃に十分勉強されたと思いますから、そこでの知識を焼き直すようなことはしません。ブログはあくまでもブログと割り切って、主に正常所見の解説に話を絞ろうと思います。

 

記載した異常所見に関して、「どこまで臨床的に意味があるの?」とか「それ経過観察していいの?」みたいな話は全くもって避けています。生理学の話と割り切って読んでもらえたら幸いです。

 

 

1. 電気信号の流れ

当たり前の話ですが、心電図は心臓の興奮を電気運動として計測したものです。その流れをどんな風に理解していけばいいか、ということに記事は焦点を絞ります。

 

「P波は心房の脱分極・QRSは心室の脱分極・T波は心室の再分極」

ということは良いでしょう。それをもっと空間的に考えます。そのためにはまず心臓の電動経路を知る必要があります。

 

「洞結節 → 房室結節 → ヒス束 → 左脚・右脚 → プルキンエ繊維」

こういう並びなのですが、すごくアバウトに波形と対応させてみましょう。「洞結節〜心房→P波」「ヒス束〜プルキンエ繊維の伝導→QRS」そして「心筋→ST〜T波」になります。下の図の紫色で書いた伝導路が、P波からQRS波までだと思ってください。ST以降はこの経路より、心筋実質(もしくは心外膜など)の問題と考えましょう。

※アバウトな絵に添えて、以下に説明を記載

 

 

洞結節 Sinus node

右心房付近にあり、ペースメーカーの役割を果たします。ここがリズムを作り出す中枢機関で、司令系統の最上位であることから会社の社長なんかに例えられます。基本的な心拍数はここによって決まりますが、駄目になってしまう疾患を洞不全症候群と言います。

 

房室結節 artrioventricular node

洞結節の信号はまずここに伝えられます。そして実際に収縮する心筋を実働社員と考えれば、上下に挟まれた中間管理職のような存在と言えます。実際の会社でもこの立ち位置の人間が一番重要な役割を担っていたりするように、房室結節の役割は非常に重要です。今回は特に注目し、3つの特徴を紹介します。

 

①伝導が遅い

ここは刺激伝導系の中でダントツで伝導が遅くなります。電気信号は通常とても早いので、もし素通りしてしまえば心房と心室が同時に収縮してしまい、訳が分からなくなります。ここでうまく時間をずらすことにより、心房と心室を交互に収縮させることができます。

 

②不応期が長い

イメージとしては、上司からの指令をやたらめったらに社員に流さず、適宜振り分ける感じです。例えば心房細動などでは上室からの刺激が房室結節をずっとノックしていることになりますが、一度心筋に刺激を送った後は(不応期として)一度休むので、現場である心筋が疲弊しないですみます

 

③自動能

ここまでは洞結節の刺激がきちんと機能している場合です。しかし洞停止のように、機能が途絶えてしまった途端、心臓が止まってしまうようではいけません。房室結節は、洞結節からの指示がなくても、ある程度動く準備をしています。それを自動能といい、だいたい40分/分くらいの刺激を起こすことができます。これが補充調律です。

 

簡単にまとめると「上からの指示をうまく処理しながら下に伝えて、場合によっては自分で指揮をとる」ということです。房室結節からの信号はヒス束、左脚・右脚、プルキンエ繊維を経由し、心筋に興奮が伝えられます。

 

 

2. 四肢誘導の考え方

心電図は中心を基準とした電気信号を、矢印の方向に向かうものを上に凸、離れていくものを下に凸として記録します。どの教科書にも載っている、胸部誘導を左図に示しました。しかしこれは歪な形をしているように見えます。

※正しいのが左、変形したのが右

 

すごくアバウトに理解するために、ⅡとaVRを一直線に繋いで、ちょっとずつ矢印を移動させて左右対称にしたのが右図です。伝導は正常だと右房にある洞結節から起こります。緑色の矢印が伝導の大まかな方向と理解すれば、心電図波形の代表としてⅡ誘導を取り上げる理由はよく分かります。また、真逆の方向に流れていくⅡ、aVRは互いにひっくり返した波形になることも理解できます。正常心電図のaVRではP波・QRS波・T波の全てが陰性になるのが普通です(命名法の定義上、RSR波と呼ぶのが正しいのですが)。

 

伝道の方向だと考えれば、向きが近いものは似た波形を認めるのではないかと想像できます。実際に「aVLとⅠ」「ⅢとaVF」はよく似ている波形が描出されることが多いです。別の見方として「aVLとⅢ」は伝導に左右対称ですから、類似している点があります。例えば、ノッチを拾いやすいのもこれらの誘導です。これは電気の流れに垂直であるため、ちょっとした電気信号が埋もれずにQRS波形に載ってしまい、ギザギザの波形として記録されます。

 

 

長々と書きましたが、具体例から考えてみましょう。右上から右下への伝導として、もっとも素直に描出されるのはP波です。これは心房の脱分極を示しており、しつこいようですが右房の洞結節から始まります。右の図を見てみると、矢印の向きであるⅡ、Ⅲ、aVFではP波は陽性であり、aVRでは陰性であることが想像できます。矢印と垂直方向にあるⅢやaVLに関しては、P波は陰性でも構いません。これがP波の正常を決めるルールの一つです。

 

ではこのルールから逸脱する場合、P波が正しく右房の洞結節から開始していないと考えます。それらを異所性調律といい、冠静脈洞調律や房室接合部調律があります。房室接合部から調律が起こると、P波はQRS波に埋もれてしまうため心電図上には欠きますが、RR間隔は一定に出ています。

 

 

3. 胸部誘導のルール

こちらの方が四肢誘導より素直に考えて良いのですが、サクッとだけ触れます。

※断面は水平ではなく、少し傾いていることにも注意

 

肢誘導でも例示した、最も素直な電気信号であるP波は緑色の矢印のように伝わります。概ね垂直方向であるV1では陰性でも良いのですが、V2-6では陽性でないと異常所見です。ちなみに心房細動のf波は通常V1でよく観察されます

 

V1-6ではRSR波が見えます。QRS波を理解するのは常に難しいので、ここでは結果だけ示します。V1のR波は小さいのですが、だんだん大きくなっていくのが正常です。これがうまく増えない場合をR波増高不良(poor R progression)といいます。これは正常のこともあるのですが、小さくなっていく場合は異常です。R波の高さとS波の深さが釣り合うところを移行帯といいます。移行帯はV2-3〜V4-5の間にあるのが正常です。

 

肢誘導は冠状面、胸部誘導は横断面の評価です。しかしV5、V6は体幹から見て割と真横左に出ている形になります。考えてみると、肢誘導でⅠやaVLも同じく真横左に近いの伝導を拾っていました。そのため、これらの波形も形が似てきます。それは正常心電図だけでなく、例えば側壁梗塞での心電図変化がI、aVL、V5、V6に出やすいといった具合に理解することができます。

 

 

さて、今日は全体的な枠組みとしての心電図を考えました。次回はそれぞれの波形についての解説を行いたいと思います。