おじゃん | 渡辺やよいの楽園

渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

梅干し

 恒例の梅干しの土用干し。
 今年はたったこれっぽっちである。これっぽっちといっても10キロあるのだが。
 本当は今回は40キロの梅をがんばって樽に仕込んだのだ。
 うちは減塩仕込みなので、かびないように毎日こまめにチェックを入れて手入れをしていた。
 ところが、ここ数日のワタクシゴトのせいで奥歯ががたがたになるほどばたばたしていたら、梅干しのことをうっかり忘れてしまった。
 先日くたくたになって帰宅して、あっと気がついて、梅を干さなきゃと樽を開け、呆然。
 どの樽も見事に梅酢が真っ白なかびに浸食されて、漬け込んだ梅は腐敗していた。
 もう大事に育てた我が子の不慮の死のようにがっくりする。
 いちおう救えないかと手を尽くしてみたが、どの梅もどろりと死に絶えていた。
 がんばって漬けたのがすべて水の泡である。
 梅干しを漬け始めてもう数年になるが、こんな失敗は初めてである。
 涙ぐんでへたりこんでいる私に、夫は「全滅じゃないから」
 そう、なぜかひと樽だけはまったくの無傷で無事だったのだ。
 その樽だけは、ルビーのような澄んだ紅い梅酢のままだった。
 
 今年の梅干しはこれだけだ。
 大事にいただこう。

 来年は絶対2年ものの梅干しを作ろうと、心に決める。