一駅向こうの、お気に入りの商店街が40年の幕を閉じる。
昔ながらの闇市のような小売りの商店が、魚屋、八百屋、鶏肉屋、肉屋、うなぎ屋、味噌屋等々、肩を寄せ合ってでも勢いよく商売していた。
私はそこの、ご夫婦でやっている佃煮屋さんがお気に入りで、毎週のように買いに行っていた。
しかし、その商店街の一角が、今日でおしまいになる。建物の老朽化という理由で、取り壊しになり、そこに賃貸していたお店はすべてなくなることとなった。
佃煮屋さんに、どこかよそでやるのかとお話してみると、
「やめたくはないんですけど、行くところもなくて。ここで40年も続けてきたんですがねぇ。これをしおに廃業します」と、ご主人が寂しそうに笑う。私は最後の佃煮を買う。
「ちくしょう、オレ、泣いちまうぜ」と、いつも威勢のいい声を張り上げていた魚屋のおじさんが、つぎつぎ別れに訪れるなじみのお客さんたちたちに、声を詰まらせる。
寂れているならともかく、活気に満ちていたこの商店街が消える。
なんともいえないやりきれなさ、そして、なにごとにもいつか終わりは訪れるんだという諦念。
庭の木漏れ日が縁側に差し込み、きらきらうつくしい波紋を作る。
春。
春は別れの季節。
そして新たな旅立ちの季節。