終わり | 渡辺やよいの楽園

渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

市場


  一駅向こうの、お気に入りの商店街が40年の幕を閉じる。
 昔ながらの闇市のような小売りの商店が、魚屋、八百屋、鶏肉屋、肉屋、うなぎ屋、味噌屋等々、肩を寄せ合ってでも勢いよく商売していた。
 私はそこの、ご夫婦でやっている佃煮屋さんがお気に入りで、毎週のように買いに行っていた。
 しかし、その商店街の一角が、今日でおしまいになる。建物の老朽化という理由で、取り壊しになり、そこに賃貸していたお店はすべてなくなることとなった。
 佃煮屋さんに、どこかよそでやるのかとお話してみると、
「やめたくはないんですけど、行くところもなくて。ここで40年も続けてきたんですがねぇ。これをしおに廃業します」と、ご主人が寂しそうに笑う。私は最後の佃煮を買う。
「ちくしょう、オレ、泣いちまうぜ」と、いつも威勢のいい声を張り上げていた魚屋のおじさんが、つぎつぎ別れに訪れるなじみのお客さんたちたちに、声を詰まらせる。
 寂れているならともかく、活気に満ちていたこの商店街が消える。
 なんともいえないやりきれなさ、そして、なにごとにもいつか終わりは訪れるんだという諦念。
 木漏れ日


 庭の木漏れ日が縁側に差し込み、きらきらうつくしい波紋を作る。

 

 


縁側

 春。
 春は別れの季節。
 そして新たな旅立ちの季節。

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