仕事関係だとはいえ、夜出歩くと、たちまち体調を崩してしまう。
咳と鼻水悪寒、風邪をひいてしまう。
週末とにかく早めに早めに寝ようと、ふとんに潜り込む私。
その横で、テレビを見ている息子がいきなり
「母ちゃん大好きだよ」という。
「え?」
「母ちゃん大好き」
この子は、ときどき、思いついたようにこういうことを言ってくれる。
忘れまい、と、思う。
こういうことを言ってくれたというこの瞬間を忘れまい、と思う。
かえって、私は言ったことがあるだろうか、
「お母さん大好き」と。
私の記憶にはなくても、母の記憶にはそういう瞬間があったことが残っているのだろか。わからない。ただ、父には言った覚えがある。
父のざらざらしたひげのほほに自分の顔をこすりつけて抱きついて、「パパすき」と、甘えた幼い記憶がある。
父はだから死ぬ直前、仕事がピークでぎっしりスケジュールがつまっていて、ろくに病院に行けない私に、言ったのだろうか。
ある日、やっとのことでお見舞いに行った私に、父は
「早く帰れ、お前は締め切りがあるだろう」
「でも……」
「子供は、幼いときに一生分の親孝行を返しているんだ、だから、いいんだ、帰れ」
くるりとふとんに潜り込んで、痩せた手だけをこちらに出して帰れと手をふる父。泣きそうになった。
帰り道、病院への長く続くポプラ並木を、泣きながら帰った。
今、子供たちが「大好き」と、言ってくれるたび「お母さんも大好きだよ」と、返す。もし、この瞬間が私の記憶から消えたとしても、子供たちの記憶には残るように、「大好き」と、繰り返す。
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