ニッポン放送の番組で、元日経ビジネスアソシエ編集長で、経済ジャーナリストの渋谷和宏さんと対談した。

渋谷さんと私は、高校の同級生だ。大学卒業後、彼は経済誌記者、私は経営者となり、取材する側、される側の関係を続けてきた。そんな彼が『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)という本を出した。非常に面白い本だった。

米調査会社「ギャラップ」の調査で、日本企業で「やる気」がある社員は6%で、139カ国中132位でほぼ最下位。理由の上位は「給料が上がらない」「仕事がつまらない」が来るという。

この30年間、日本企業は〝縮み経営〟をしてきた。渋谷さんによると、「1980年代までは、日本製品は質が高かったが、バブル崩壊後、給与や投資など徹底してコストダウンを続けた。コストカットが得意な社長が評価された結果、賃金が据え置かれるようになった。ひとつひとつの企業としては間違っていない経営判断かもしれないが、国全体としてはデフレに陥った」という。

さらに、社員に対する評価方式も、日本は「減点主義」が主流だと指摘する。年功序列や終身雇用制度は、何もしなければ給与が上がる分、挑戦する意欲のある社員が出にくい。

そもそも、減点主義の最たるものは国の官僚だ。挑戦して失敗することを極端に嫌う。私が好む「薩摩男の序列」のように、「1、何かに挑戦し、成功した者 2、何かに挑戦し、失敗した者」。こうした評価を基本とすべきだ。

岸田文雄首相は、この春を正念場と位置づけ、企業に賃上げしろというが、賃上げは民間企業の経営判断であり本来、政府が介入すべきことではないと渋谷さんもいう。

国内総生産(GDP)が増えなければ、持続的な賃上げの原資は生まれない。それを考えるのが政治の仕事だ。企業が人や物に投資したくなる魅力的な減税などに、もっと本気で取り組むべきだ。

渋谷さんいわく、米グーグル社をはじめ欧米にはCHO(チーフハピネスオフィサー)という、社員の幸福度を指標に、モチベーションを高めることを使命としている役職があるという。ワタミも早速、導入を決めた。

ワタミも賃上げを実施していくが、日本の外食市場の低価格競争の中で戦っていく延長線だけでは、持続的な賃上げは難しい。円安の今、大きな希望は海外事業だ。海外出店や輸出でしっかりと稼ぎ強い企業体質に変えていきたい。

この本の帯には、会社員に向けて「あなたのせいじゃない」とメッセージが躍る。国も経営者も「今の延長線ではいけない」と現状否定すべき時に来ている。岸田政権の支持率が過去最低水準だが、「やる気のある会社員が6%」という数字は、もっと深刻に感じる。

神奈川県立希望ケ丘高校の同級生が書いたこの本は、日本経済を論理的に現状否定している。いちばん大事なことは、こうしたら日本経済は成長していくという「希望」だ。

 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より