先日、鹿児島大学の稲盛会館で講演会を行った。高市早苗新首相率いる自民党と日本維新の会の連立政権が発足したが、京セラ創業者の故・稲盛和夫さんの言葉「動機善なりや、私心なかりしか」と問いかけたい。

維新が主張する衆院の比例定数の1割削減は、明らかに公明、国民民主、参政の各党などに不利な提言だ。それより、すべての国会議員の歳費を1割削減すべきだ。議員定数1割削減は、単純計算で約50億円のコスト削減だ。その50億円のために、野党の猛反対で、補正予算など重要審議が進まないのであれば、コストバランスが合わない。

定数削減と引き換えに「企業・団体献金の廃止」は先送りされた。私は議員時代から「政党助成金を議員個人に直接支払うべきだ」と提言してきた。現状の政党助成金は、主に党の活動や宣伝のために使われており、議員個人に入ってこない。

よって、企業・団体献金はなくならず、議員は献金を受けた組織のために働く。いつまでも既得権が守られ、規制緩和や経済成長が進まない。国会議員の在り方そのものをグランドデザインし、そこから逆算し改革をすべきだろう。

民間企業では、2つの組織を合併するような改革の場合、「1+1=3」になるような相乗効果を期待する。自民と維新の連立の合意のメリットを示してほしい。
世界をみると、コロナ禍以降のインフレに疲弊している状況がある。「保守」と「財政出動」を主張する政権が勝利しやすい傾向がある。

世界的投資家のジム・ロジャーズさんは、歴史的に見れば、インフレになると、国民の不満がたまり政治家は自国ではなく、外国に責任転嫁を始める。そして、貿易戦争が勃発し、やがて実際の戦争につながると先を見通す。

ジムさんは「インフレを下げるためには、中央銀行がお金を安易に刷ることをやめるべき」という。「人々は楽な道を選びがちで、困難に直面すると諦めてしまうため、お金を増やし、支出を増やしてしまう」と警告する。

高市首相は、アベノミクスを成功体験として信奉していると私はみる。ここからの「アベノミクス」の再稼働は日本の危機的財政にトドメを刺す。現状、異次元の金融緩和で、国債を大量に発行した副作用で、日銀は政策金利をあげて物価をコントロールすることができないでいる。

金利を上げていけば、政府は国債の利払い費が増加して、減税どころでなく、財政破綻へと進む。高市首相が尊敬する「鉄の女」と呼ばれた英国のマーガレット・サッチャー元首相は、国民に「耳に痛い改革」も行った。

ワタミの宅食が先月発売した、家まで届けて1食450円(税込み)の新商品「好い日の御膳」が、はやくも累計30万食突破のヒットとなっている。高齢者を支えるケアマネジャーからの問い合わせも連日頂いている。
うれしい半面、それだけ日本の物価高は深刻だという証拠だ。新政権には、私心なく、鉄の意志で、国の経営改革を期待したい。

 



【産経ニュース】「渡邉美樹経営者目線」(隔週火曜日連載)より