ワタミは昨年末、シンガポールの食品卸大手「リーダーフード」を子会社化するM&A(合併・買収)を発表した。世界中から食肉や鮮魚を仕入れ、シンガポール中の飲食店や、スーパーマーケットに加工・配達している企業だ。

円安や、人口減少が課題となる中、海外事業の加速を意識した判断だ。将来的に国内、海外の売上比率を「50%」「50%」にすることを目指している。

リーダーフードは、売り上げ100億円規模対応の新工場を持っていたのが一番の理由だ。循環型6次産業ワタミモデルの中でも、2次産業の加工工場は大きな意味を持つ。自社で手作りにこだわる工場を持つようになり、それが差別化となり、ワタミは国内でもステージが変わった。介護や宅食に参入するときも大きな優位性となった。

さらにちょうど、アジアの拠点を香港からシンガポールに移そうとしていた。中国の一部と化した香港よりもシンガポールは、アジアの金融のハブで税の負担も少なく、政治も安定しており魅力的だ。リーダーフードは、世界中に160~170の仕入れ先を持つ。ネットワークが一気に広がりアジアで店を広げていく上で、圧倒的に仕入れ力が強化された。

さらに国内で有機農業を展開しているワタミファームの輸出も加速できる。ワタミ以外の飲食店への食品卸も拡大させる。自社物流で、お店まで商品を届けるラストワンマイルを有していることも魅力だ。

現在のオーナーが社長を続投する「友好的M&A」だ。華僑で、夫婦で中国の地方から移住し、一代でシンガポールの中華料理店の90%を抑えるまでに会社を成長させてきた。はじめて顔を合わせた瞬間「いい経営者で、いい話になる」と直感的に思った。

私の中でM&Aとはオーナーへの「尊敬」と「感謝」だと考えている。

数字の条件が平行線をたどったとき、私ははじめて口を開き「ここまで会社を育ててきた思いを尊敬している」と告げて、その上で「将来」「未来」の話を切り出した。「あなたの思いを受け継ぎ、アジアのリーダーフードにしていきたい」と話すと、オーナーは20%の株を保有したまま、これまでの経験人脈を継続させ、一緒に会社を大きくしていきたいと、当初にはない最高の形で話がまとまった。

数字の話には損得しかない。未来の話をすれば、お互いに得だ。株を売ったり買ったりではなく「思いが重なるかが」M&A成功のいちばんの条件だ。

さて、年頭にメディアから今年の為替水準について質問された。私は平常時で「135~155円」になるとみている。日米の中央銀行の金利操作の動向も注視されるが、私はそれ以上に政府日銀の構造的な問題で、来年には財政経済に大きなショックが来るのではと心配している。

当然、未来のことは誰にもわからない。しかし自分の未来は変えられる。財政破綻が来ても、企業として生き残れる準備は、まだまだ進めていく。

 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より