支持率低迷の岸田文雄首相が「減税」や「還元」を打ち出している。ニッポン放送の番組に元官僚のリスナーから「異次元の大衆迎合」と批判するメールが届いた。的確な指摘だ。自民党が減税を掲げたら、野党も減税を主張しているから減税合戦がおこり、大衆迎合に拍車がかかることが心配だ。

日本国債を海外から購入してもらうためには国際社会の「信用」が必要になる。「大衆迎合で自滅する国」とみなされれば、日本の死期(破綻)を早めることになりかねない。国の税収は3年連続最高となったが、国の予算は相変わらず借金(国債)頼みに変わりはない。岸田首相は税収増を「財政再建に活用する」と国際社会にアピールするべきだ。

さらに岸田首相は企業に「賃上げ」を求めているが、今の実情は、ベースアップをしても物価高のスピードに間に合わない。より大きなインフレのリスクもある。中央銀行は物価をコントロールするのが役割だが、日銀はその機能を失っている。日銀が財政ファイナンスで国債を買い続けることが、どれだけ副作用があり危険なことか国民に説明がなさすぎる。

7日付朝日新聞の原真人編集委員のコラムで、経済関係者たちが集まる非公開の勉強会で黒田東彦前日銀総裁が「金利が上昇し始めたら政府の利払い費用は急増する。そうなったら大変なことになる。警戒しておいたほうがいい」と語ったと伝えている。自分がその大変なことになる原因をつくったのに、よくそんな無責任なことが言えると驚く。

岸田首相がすべきことは、国民に国家のバランスシート、借金の数字を示し、財政再建の必要性を説明することだ。私は全社員に「コロナ禍に日本政策投資銀行から調達した120億円を今後6年間で返済する必要がある、コロナとの闘いは終わっていない」と伝えて、会社の方向性をひとつにしている、それが経営だ。

私は何も、国の借金をゼロにしろとはいっていない。GDP比250%超えは世界断トツで、第二次世界大戦後の財政破綻の水準に到達している。せめてGDP比80%台を目指すべきだ。コロナ禍で若い経営者から借金返済の相談を受けた際「少しずつでも返済していく、信用がいちばん重要だ」と伝えた。「信用は未来」だ。今の国には、借金を減らしていこうという姿勢がみられない。日本の信用がなくなったら円は終わる。

私の父親は会社を清算した後、25年間かけて、借金を返済し続けた。借りたものは返すべきという生き方を貫いた人だ。その生き様は、私の経営者人生に大きな影響を与えている。完済後、父にはワタミの監査役をしてもらい、厳しく経営を見張ってもらった。この国の経営は正しくおこなわれているのか、国の経営を監査するのは、私たち国民以外にいない。

 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より