円安がじわじわと進行し、物価高はすっかり定着している。しかし、日本銀行の中村豊明審議委員は先月、日銀が掲げる物価安定目標について「達成に確信を持てる状況には至っていない」と述べた。「単に金利を上げたくない」の口実に聞こえてしまう。

金利を上げれば、国債価格は下落し、日銀は実質債務超過に陥る。金利が上がることにより政府は予算が組みにくくなり、国債の格付けの下げにつながる。よって金利を上げることは、財政破綻への引き金を引くことになりかねない。

先日、ニッポン放送の番組でリスナーから「財政破綻が起きたときに一獲千金を狙えないか」という欲の強い質問が来た。参考に取り上げたのが、2013年に出版された橘玲さんの『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)だ。

この本の中では「日本国債ベアファンド」を紹介している。国債が下落すると利益を生むように商品設計された金融商品だ。金利が一方的に上昇する局面では一種の「宝くじ」になるという著者の意見に同意するが、私は円建てではなく、ドル建ての日本国債ベアファンドでなければ、円が紙きれとなるハイパーインフレの局面では、真の資産を築くことはできないと考える。

残念ながら、ドル建ての日本国債ベアファンドは探しているが見当たらない。やはり、財政破綻時は一獲千金狙いより、資産防衛に徹するべきだ。いちばんは繰り返し推奨しているドルのMMFだ。さらに国内の金融機関は預金封鎖も考えられ、海外の銀行に口座を持っていくことも重要に感じる。

橘さんは同書で、財政破綻後の日本を小説で描写している。ゴミ収集車はストライキで来ず、スターバックスのラテは1杯3800円、変動金利だった住宅ローンの破産者が続出し、年金受給者はホームレスに、消費税の税率は30%に引き上げられた。そんな小説の世界が現実になる可能性は、今の国家経営を続けていたら十分あり得る。

今、この国に「わくわく」はあるのだろうか。岸田文雄首相は内閣改造に踏み切ったが、日本の目指すべきシナリオについてメッセージが聞こえてこない。安倍晋三元首相のアベノミクスや、小泉純一郎元首相の郵政民営化は、評価は分かれるが「やるぞ」という強い覚悟を感じた。岸田首相からはその「やるぞ」が何も伝わってこない。

ワタミでは今月、下期を前に幹部社員を集めた会議をおこなった。今回は趣向を新たに、24人の本部長が全員、自ら「今、わくわくしていること」を発表するプレゼン形式をとった。熱いメッセージは人の心を動かす。「伝播(でんぱ)」が何よりの目的だった。

国民は新閣僚の就任会見で、何かわくわくしただろうか。そもそも、民間企業は年功序列や派閥均衡型で人事をしていたら潰れてしまう。「国家経営」にも経営の原理原則が通じると私は思う。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より