東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まった。これに対し中国が、日本産の水産物輸入を全面停止するなど、猛反発している。

中国や香港では日本食を忌避する動きも出てきている。香港のワタミ店舗でも放出直後から1週間の売り上げが15%ダウンした。現地からの報告によると、水産物以外にも和牛など日本食全体に影響が出ているようだ。

そもそも中国の反発に科学的根拠はない。放出しているトリチウムの濃度の総量は、中国や韓国の原発と比べて極めて少ない。しかし、「反日」を訴えたい中国政府にとってはいい口実を与えてしまった。不動産大手の中国恒大集団が破産申請するなど、経済が苦境に直面しており、中国政府は国民の不満を、原発処理水にそらす目的があるのだろう。だから日本が「安全だ」と説得を試みても無駄足に感じる。

最大の被害者は、漁業関係者だ。ワタミはもともと、海の環境保全という観点から漁港との提携を進めているが、ただでさえ日本人の魚離れの影響で漁業者の利益は少なくなっている。水産物の大きな輸入先だった中国から受け入れを拒否されれば、ますます苦しい状況に追い込まれてしまう。ワタミでも日本の漁業を応援するキャンペーンを早急に組むよう社内に指示をした。

この機会に、改めて原発について考えるべきだ。国会議員時代から私は脱原発を提言しているが、放出している処理水は安全とはいえ、薄めないと危険という物質であることに違いない。福島第1原発の燃料デブリの冷却は現在も続いている。処理水放出は完了するまで30年かかると言われている。

いざ事故が起きたときのリスクを考えれば、軽々しく「安全」とは言えない。漁業関係者への補償も国民の税金や電気料金への上乗せ負担であり「経済的」とも言えない。

ワタミは日本の外食企業で唯一、事業活動で使うすべての電力を再生可能エネルギーでまかなう「RE100」を宣言している。実現のために、風車、太陽光、バイオマス発電など、あらゆることに取り組んでいる。グループ会社のワタミエナジーでは、「電力の地産地消」を推進している。

岩手県陸前高田市の「陸前高田ワタミオーガニックランド」に建設したソーラーシェアリングで発電された再生可能エネルギーを現地の電力会社に販売し、近隣の家に供給している。地元で作った電気だと感じてもらえる。

このように、日本の国民1人1人が「自分たちの電気は、自分たちでつくる」という意識を持てば、原発に頼らなくてもいい社会の実現が目指せると考える。

岸田文雄首相は漁業関係者に「今後数十年にわたっても、必要な対策をとり、その全責任をもって約束する」と述べた。任期が数年の首相がそんな未来の約束をすることは無責任だ。未来は、国民1人1人で変えていくしかない。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より