岩手県陸前高田市の「陸前高田ワタミオーガニックランド」に野外音楽堂「D―Stage」が4日完成し、記念式典が行われた。音楽堂の設計を担当してくれた世界的建築家の隈研吾氏、建設費用を寄付してくれたダイソー創業者の矢野博丈氏、音楽堂でダンスイベントのプロデュースを買って出てくれたテリー伊藤氏はじめ、協力してくださった多くの皆さんに感謝したい。

 

私は2011年から陸前高田市の参与を務めている。音楽堂の建築は、東日本大震災の津波によって失われた憩いの場を復活させたいという市民の声を聞き始まったプロジェクトだ。

 

建設して終わりの箱モノ(公共建築物)にしないことを一番意識し、市民が気軽に集まれる場所という役割の他に、日本中から人を集めるために、高校生向けダンス大会を毎年開催し「ダンスの聖地」を目指す企画を正式発表した。次世代を担う若者たちに来てもらうことで、震災の記憶をダンス大会の思い出とともに語り継いでもらう。

 

さらに隈氏の建築は、高齢者旅行や外国人観光客も呼び込める。地方の復興は「とにかく人を呼び込む」ことに尽きる。

 

ワタミオーガニックランドは、20年かけて完成を目指す。今年の野外音楽堂に加え、来年は農福連携の作業ハウス、その次はオートキャンプ場と、毎年ひとつずつ増設していく計画だ。決して大きくもうかる事業ではないが、ワタミの理念や企業文化の象徴としての価値は大きい。

 

ニッポン放送の私のラジオ番組に「ビッグモーター問題」をどう思いますかというメールが届いた。保険金の不正水増し請求や、街路樹を除草剤でからして国道から店がよく見えるようにしていたといった行為に注目が集まっているが、根本的な問題は、利益ばかりを追求する売り上げ至上主義の企業文化だろう。

 

兼重浩行前社長は会見で「知らなかった」「社員がしたこと」とコメントしたが、売り上げ至上主義の風土をつくってしまったのは誰かということだ。直接不正を働いたのは社員たちだとしても、それは厳しいノルマを達成するための行為だ。いびつな企業文化をつくった責任はトップにある。

 

信用を失ったビッグモーターだが、6000人の社員たちの雇用は何としても守らなければならない。彼らは企業文化の被害者だ。前社長が株式を所有している以上、資本と経営を分離するとしても、なかなか風土は変わらないだろう。そうなると、再建策は会社売却が現実的になるだろうが、雇用の維持は守られてほしい。

 

オーナー経営者というのは、注意してくれる人が少ない分、常に己を律する必要がある。私自身は「神様が応援する生き方」を常に意識している。津波で流された陸前高田の広大な土地で再びゼロから有機農業に取り組み、毎年多くの若者が集う野外音楽堂にする。経営者人生をかけたこの一大事業、神様が応援してくれればありがたい。

 

 

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より