日銀が7月の政策決定会合で、YCC(イールドカーブ・コントロール)と呼ばれる長短金利操作の修正を決めた。今後は運用を柔軟化し、上限を0・5%程度としつつも、市場の動向に応じて1・0%程度までの動きを容認するとしたが、私はこの修正が限界ぎりぎりと考える。本格的に金利上昇を容認すれば、日銀が持つ膨大な国債の評価額が大きな含み損を抱え債務超過に陥ってしまう。

同じ状況は国債を多く抱える地方銀行にも言える。アメリカの地方銀行の破綻ではすまない状況に日本も直面する。構造的に利上げができないと海外の投資家から見抜かれれば、円安は本格化するだろう。

すでに見抜いている投資家もいる。昨年に対談した世界三大投資家の1人、ジム・ロジャーズ氏は新著『捨てられる日本』(SB新書)の中で、「多額の債務を抱える日本にとって、利上げは大きな試練となる」と語っている。ニッポン放送の番組ではこの本を特集し、ロジャーズ氏が警告する、日本で起こりうる6つの恐怖のシナリオを紹介した。

(1)日本円は捨てられる。
(2)膨大な債務を抱え日本は沈没する。
(3)金利上昇と通貨切り下げで、日本経済は大打撃を受ける。
(4)インフレで競争力が低迷する。
(5)低迷する食料自給率が新たな危機を生む。
(6)人口減少、少子高齢化で国力が地に落ちる。

これら6つのシナリオから、「危機の時代に備えよ」と、ロジャーズ氏は言う。番組にゲストとして出演したファイナンシャルプランナーで本の監修・翻訳を手掛けた花輪陽子氏も「ロジャーズ氏は、為替は1970年代に向かっている」とし、1ドル=360円の時代に逆戻りする可能性を指摘していた。

一方で、ロジャーズ氏は日本が「捨てられない国」になるための産業として、「観光業」「農業」「教育」が成功する可能性を秘めているとも言っている。これはワタミの考え方とまったく一緒だった。

農業ではワタミファームを中心として有機農業に積極的に取り組んでいるし、外国から優れた才能と若い労働力を手に入れるための教育では、カンボジアでワタミエージェント傘下の「ARS(アジアリクルートスタッフ)」を展開している。

観光業では、先月も東京・浅草田原町エリアにインバウンド戦略店として「すしの和」をオープンさせた。テークアウトも併設し、早速、繁盛店になっている。このまま円安が続けば、外国人観光客はさらに増えていくだろう。

足元、国内外食も好調で、アフターコロナ順風と思われるかもしれない。しかし、私の中には強い焦燥感がある。近い内に、日銀や日本の破綻が表面化し、大幅な円安に見舞われることへの対応だ。「捨てられる日本」でも「生き残る企業」でなくてはならない。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より