私が参院選に出馬して当選したのは、2013年7月のことだった。今年でちょうど10年となる。節目に、出馬の舞台裏や公約を振り返りたい。

当時の安倍晋三首相や菅義偉官房長官から、アベノミクスの第3の矢である「民間投資を喚起する成長戦略の実現」に、「規制」や「既得権」と戦ってきた経営者の経験をいかしてほしいと声をかけられ出馬を決意した。

しかし、既得権の壁は厚かった。当選直後、タクシー法案と呼ばれる、タクシーの台数を規制する法案があった。既存のタクシー会社を保護する政策だ。本来なら規制緩和で配車サービスのUber(ウーバー)などが参入しやすい環境を整えるべきで、反対の意見を述べた。しかしタクシー業界の「票」に配慮し、規制緩和に否定的な自民党の実態を目の当たりにした。

中小企業支援でも、目先の票を意識する議員が打ち出すのは、赤字続きで成長を期待できない「ゾンビ企業」を守る政策が目についた。約7割が赤字の中小企業を黒字にすれば、日本経済は復活すると、商工会、商工会議所のあり方について、改革提言を行っても、現状肯定ありきで相手にされなかった。これ以上批判すると委員会の質問に立たせないと言われたこともあった。

震災復興も、私が参与を務めている岩手県陸前高田市など大半が、人口や事業所数が震災後から年々減ってしまっている。

現状否定で、日本のあり方を根本から考え直さなければならないのに、国政選挙では高齢者のみならず、若者も自民党支持が高いデータが出ている。現状にある程度満足してしまっている証拠だ。しかし、国や地方の長期債務残高が1279兆円まで増え、日銀の国債保有残高も581兆円まで膨らんでいる。本来であれば、「日本は今のままで本当にいいのか」という声が巻き起こっていいはずだ。

そんな中、「焼肉の和民」が導入した学割が好調で今の社会を反映している。高校生たちが放課後に、焼肉を楽しんでいるのだ。若者が裕福になっているともいえるが、私は少子化の象徴だと考えている。子供の数が少ない分、両親や祖父母からもらえる小遣いの金額が多くなっているのだ。

日本の大学入試は相変わらず暗記頼りで、自分の価値観や考え方を問う海外の大学との差が歴然となっている。ただでさえ少子化が深刻な社会問題になっているのに、このままの教育制度では、脆弱(ぜいじゃく)な若者を生み出す。未来を担う若者たちには、今の政治を批判するぐらいのパワーを持ってほしい。

10年を振り返ると「事実として」、人口が減り、国の借金だけが増えた。ここから先10年の間には、この国の「経営危機」は避けられないと感じる。出馬会見では「若者が夢を持てる社会の実現」と、私心なく決意を語った。国民が、私心なき政治家を選ぶことでしか、この国は変わらないと思う。それが「私の10年総括」だ。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より