今年のワタミの定時株主総会は、4年ぶりに入場制限のない形で開催できた。

 

私にとって株主総会は夢を語る場だ。今回は、和牛焼肉で全米に進出するアメリカンドリームを語った。全米だけで3000億、4000億円の売り上げも夢ではない。

 

さらに国内では、有機農業から薩摩牛まで、今のワタミの総力を結集した「アンテナショップ」を10月5日にオープンすると発表した。この店を通じて、循環型六次産業ワタミモデルの事実とメッセージを発信する。

 

Z世代を中心に、消費は投票という良い風潮がある。その企業を応援することで、社会課題が解決され、世の中が良くなる。それこそが理想の企業と株主の関係だと考える。

 

ワタミの株主総会は、質問がなくなるまで受け続ける。最初の頃、証券会社から、ある程度のところで切り上げるようレクチャーを受けたが断った。株主は「同志」であることを示す最大の誠意だ。

 

一方で国内の株主総会では、ファンドの株主提案が目立つ。セブン&アイ・ホールディングスはアメリカの投資会社から、赤字が続くイトーヨーカ堂のスーパーマーケット事業と、好調なセブン―イレブンのコンビニ事業の分離を迫られた。井阪隆一社長はコンビニの商品開発をスーパー部門が担っているといった苦しい説明に終始していたが、地域住民の暮らしを守るスーパーの社会的な意義を強調するなど、理念を語ってほしかった。

 

効率よくROE(自己資本利益率)を上げるためであれば、確かに切り離した方がいいのだろう。だが最大効率が最大効果を生み出すわけではない。今年3月にイトーヨーカ堂の創業者、伊藤雅俊さんが亡くなった。もしご存命だったら、今回の株主提案になんと反論されたかと思う。

 

伊藤さんがある日、「和民」の店を見たいと来店されたことがある。熱心にメモを取られ、なぜ手作りなのか、なぜ有機野菜なのか、さまざまな質問をされた。自らを商人だといい、目先の利益ではなく、お客さまを喜ばせることに貪欲で、大経営者になっても学び続ける姿勢に、感銘を受けたことを思い出す。

 

今年のワタミの株主総会で「株主にとってのメリットはなんですか」と質問された。私は「将来性です」と即答した。

 

日本の政治家も官僚もアメリカ流に弱い。円安で、日本企業は海外ファンドの脅威にさらされている。合理性や短期的な利益ばかりを追い求めるアメリカ流とは違う、日本流の経営をしっかりと打ち出し、守るべき必要があると考える。

 

伊藤さんはこんな言葉も残されている。「政府みたいに借金の埋め合わせに好きなだけ国債を刷ってやっていける企業などありません」。その通りだ。国家経営も「将来性」をきちんと示すべきだ。

 

 

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より