食品や電気料金などの値上げラッシュが続いているが、相変わらず日銀は物価の番人の役割を果たしていない。連日の日経平均の高値更新もバブルに感じる。来年あたりには大きなショックがあってもおかしくないと警戒する。

世界の中央銀行は金利を引き上げ、資金の回収といった本来の仕事をしている。日銀も金利を上げ、インフレを押さえ込まなければならないのに、異次元の金融緩和の副作用で日本だけはそれができない。そうなるとインフレは恒常化し国民生活は、ますます苦しくなるだろう。

ワタミでは全社員を対象に、ボーナスとは別で2万円の「インフレ手当て」を支給した。本来であればベースアップをしたいところだ。しかし、現在の日本経済の状況は脆弱(ぜいじゃく)だ。値上げすれば客足は遠のく。大手ハンバーガーチェーンなどの価格施策でもその傾向は如実に出ている。岸田文雄首相の「経済の好循環」にはほど遠い。売り上げと利益をしっかり確保しベースアップしなければ企業は永続できない。

先日、大手の損害保険会社の経営者と会ったとき、国内のインフレリスクを意識して海外事業の比率を高めていると話していた。私も一刻も早く海外事業を進めなければならないという緊張感のもとで経営に臨んでいる。

しかし、政府の姿勢からはそうした緊張感が見受けられない。「骨太の方針」の原案ではコロナの感染法上の分類が5類に移行したことを踏まえ、「歳出構造を平時に戻していく」としているが、コロナ前の平時であっても財政赤字だった。このままでは政府の借金も実質「インフレ税」という形で債務調整される可能性が高い。今求められているのは抜本的に社会の流れを変える大胆な改革だ。

そこで重要なのが「現状否定」だ。日本が置かれている状況を見つめ直すべきだ。規制緩和による経済成長なども今こそ本腰を入れるべきだ。財源論先送りで効果もあいまいな「異次元の少子化対策」も、若者から「それなら子供を持ちたい」という期待の声があがってきていない。もっと現状否定が必要だ。私が議員時代から提言している第3子出産で1000万円支給といった目玉政策を取り入れるべきだ。

先日、創業まもない赤い看板だった頃の和民のメニューを復刻している「こだわりのれん街」(東京都品川区)に足を運んだ。赤い和民はチェーン居酒屋であっても当時の主流だった冷凍食品を使わず、店仕込みの手作りにこだわっていた。

「現状否定」の立場に立って当時の業界に真っ向から立ち向かい、新しいジャンルを作った。会社が成長して生産性重視の考えも台頭してきた。今こそあの頃を思い出して、もう一度「現状否定」で挑戦的な店を作ろうと指示している。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より