岩手県陸前高田市の佐々木拓市長と記者会見し、「陸前高田ワタミオーガニックランド」に整備している野外音楽堂を8月4日にオープンすると発表した。設計を担当した世界的建築家、隈研吾氏を招き、当日は完成式典と記念コンサートを行う。

ワタミオーガニックランドは、「命と循環」をテーマにした体験型農業テーマパークで、おととしの3月に先行整備していたモデルエリアが開業した。1棟だったバーベキュー棟を3棟に増設するなど修学旅行生を中心に、団体客が好調だ。今年度は来園者数1万人を目指す。

新しく開業する野外音楽堂は、東日本の高校生のダンスの聖地を目指すことも発表した。ドリームやダンスへの思いを込めて「D―Stage」とネーミングした。陸前高田市の主催で高校生向けダンス大会を毎年開催すれば、参加者、関係者を呼び込む経済効果に加え「若者の町」というイメージも醸成される。佐々木市長が公約として打ち出している「大学誘致」にもつながるかもしれない。

私は前市長のもと、陸前高田市の参与を2011年から12年やってきた。経営者の視点で、いかに「街を持続的に経営していくか」を提言し続けてきた。

佐々木市長は、農林水産省のキャリア官僚出身だが、地元愛にあふれた人物で、ハコモノありきでなく、「今あるものに目を向ける」という経営感覚を持っている。「大学誘致」も今ある市内の競技場やホールを活用するという案に好感を持った。今後も市長の補佐役、参与を続投していくことになった。

佐々木市長は、公約に「農林水産業の生産額倍増」も掲げている。ワタミも陸前高田の特産品であるシイタケの販売や、広田湾のカキをはじめ漁港との提携などで応援していきたい。

しかし、私と佐々木市長の間で、「今あるもの」で最も成長分野は林業だということで一致した。具体的には、ワタミと公益財団「Save Earth Foundation」(SEF)で、陸前高田市の森1000ヘクタールを管理して再生させ、森林クレジットを各企業に販売する。それで得た利益を新たな市の財源とする。SEFはCO2の排出量取引を通じて企業の脱炭素経営を後押しする。

林業も農業と同じく、担い手不足が深刻化している産業だ。だからこそ、企業には積極的に入って補っていく責任がある。脱炭素社会の新たなモデルを確立していきたい。

私は前市長と、二人三脚で復興事業に取り組んできた。しかし、佐々木市長は、それを気にする雰囲気を出さず、理念を語り未来の話を進めたのが印象的だった。日本の政治家は「メンツ」や「男の嫉妬」の世界だが、この方は違うと感じた。

永田町は解散風が吹き、自分たちの当選のことばかり考える政党、政治家が目につく。大事なのは、国を経営するという視点であり、理念ある政策だ。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より