外食・観光業の回復が本格化してきた。ワタミの外食も居酒屋が計画比110%、焼肉は計画比120%と久しぶりに計画超えの明るい数字が並ぶ。居酒屋「ミライザカ」「鳥メロ」の大型宴会も好調だ。これは大型店の閉店が相次ぎ、残存者利益が取れていることが大きい。居酒屋には底堅いマーケットがあると信じ、完全撤退せず、継続を選んだ経営判断が効果を生んできた。

想定以上なのは「焼肉の和民」の好調だ。コロナ禍、今後の外食は目的志向が強くなると、焼肉事業に参入した。行動制限中は、どんなにいい店でも客足に限界があったが、ようやく手応えを感じている。さらなる出店も検討したい。何よりうれしいのは、ここ数年耐えた、外食事業の社員が活気に満ちていることだ。

しかし、日本経済の状況については大局観からあえて「懸念」を表明しておきたい。景気が回復傾向にあるとしても、物価高やインフレを、日銀がコントロールできないことだ。アメリカでもインフレは起きているが、FRB(米連邦準備制度理事会)がコントロールしていて、働く人たちの賃上げにもつながっているから悪い状況ではない。

一方の日本は、禁じ手の財政ファイナンスで、大量の国債を中央銀行が引き受けており、金利を上げれば、日銀が債務超過に陥ってしまう。したがって、金利の引き上げができない。できたとしても、今年末ぐらいに長期金利を1%にするくらいだろう。それでも日銀にとっては大ダメージだ。

つまり、賃金は上がらないのに、じわじわとインフレが進み、政府や日銀には打つ手がない局面が来ると読む。こうした問題の表面化で、私は来年以降、厳しい「乱世」が来ると危機感を抱いている。景気回復でも財政破綻というシナリオをぜひ意識していただきたい。

しかし、ワタミは「乱世」であっても生き残っていく企業であらねばならない。理由の1つには、ワタミモデルとして取り組んでいる、カンボジアなど開発途上国における教育支援がある。

ワタミは公益財団法人「スクール・エイド・ジャパン(SAJ)」を通じて、カンボジアで350校以上の学校校舎を建設し、80人の子供を預かる孤児院を運営している。校舎建設には1校あたり350万~650万円かかり、孤児院の里親になるには、子供たちの教育生活費として、月100米ドルの寄付金が必要だ。

この活動に賛同してくれたのが「デヴィ夫人」ことデヴィ・スカルノさんだ。デヴィ夫人は、校舎建設の寄付に加え、小学2年生の男の子の里親支援にも名乗りを上げてくれた。彼女は「私は行動したい。ただ見ているだけ、ただ祈るだけでは何も実現しません」という。地球上にはまだまだ格差がある。

開発途上国への教育支援は、砂漠に水をまくような活動だ。しかし、外食業がアフターコロナで回復してきた通り、「継続は最大の力」である。

 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より