アメリカでシリコンバレー銀行など中堅銀行が破綻し、クレディ・スイス、ドイツ銀行まで信用不安が急速に連鎖した。背景にはSNSで「次に危ない金融機関」の情報が広まったことがある。信ぴょう性とは別に、不安がネットで拡散され、取り付け騒ぎが起きる時代だ。

こうした欧米の金融不安は、わが国にとって対岸の火事なのか。そうは思わない。ニッポン放送の番組で経済評論家の森永卓郎さんと意見交換した。シリコンバレー銀行は大量の米国債を保有しており、FRBの利上げで、保有していた米国債の価値が下がり、含み損を抱えたことが最大の要因だと指摘。森永さんは、利上げを続ければ、アメリカ経済は失速し、ニューヨークダウは一年後ぐらいには大暴落すると予想していた。

しかし私は、日本の方が深刻だと感じる。先ごろ成立した今年度予算は、約114兆円の歳出に、8兆円以上の「利払費」が含まれている。現状が低金利だから8兆円程度にとどまっているが、利上げをすればこの「利払費」が一気に跳ね上がる。だから金利は実質上げられない。FRBと違い、日銀は金利の上げ下げで物価を調整する機能を失っている。

さらに、日本の金融機関も国債を大量に保有しており、金利が上がれば、保有国債の価値が下落し、シリコンバレー銀行のように、含み損を抱え、経営が行き詰まることになる。

そうした危機直前なのに、今回の予算からは「何の工夫もない」という印象を受けた。歳出では防衛費を大きく増やし、社会保障関係費も年々増加。一方の歳入では赤字国債などの公債金が3割以上にのぼる。借金体質は顕著で「ダメな経営者が立てた予算」にしか見えない。

極めつけは予備費だ。バラマキ政策で予備費を使い切るのは、選挙前の人気取りにしか感じない。日本経済を支える99%は中小企業で、その約7割は赤字だ。赤字の会社が賃上げをできるわけがない。岸田文雄総理の「賃上げによる経済の好循環」はそう簡単ではない。

そうした中、ワタミの宅食では、全国約7000人のお弁当配達スタッフの配達手数料を約8%あげるベースアップを行った。燃料費などのコストが上がっているので当然のことだ。一方、お弁当の価格も少し値上げさせていただき、お客さまにもご理解を求めている。持続可能な経営モデルを確立し、現在の1日25万食を100万食に伸ばす「夢」は変わらない。物価高の中、民間はギリギリの経営努力を重ねている。

一方の政治は、財政赤字にも関わらず、統一地方選で、当選するためだけのバラマキ政策を掲げている。すべての政治家は、歳出を減らし、歳入を増やすギリギリの努力をし、耳の痛いことも国民にお願いすべきだ。少なくても、今の日本は持続可能な経営モデルではない。このままでは、ある日突然SNSで、日本の信用不安が拡散されてもおかしくない。


【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より