ワタミグループが支援し、私が審査委員長を務めるソーシャルビジネスコンテスト「みんなの夢アワード」を「LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)」で開催した。4年ぶりの有観客で1500人が来場し大盛況だった。エントリー数は356組、今年で13年目と、実績スケールともに日本最大級のビジネスコンテストだ。

このアワードは起業家の発掘や育成、支援を目的として、当初は純粋に出場者の夢を応援していたが、現在では社会問題を解決する起業の応援へと意義が昇華している。

今年のグランプリには、元NHK職員のたかまつななさんが輝いた。彼女は「『社会は変えられる』と思う子どもたちを日本全国で育てたい」と、すでに群馬県とタッグを組み高校をまわり出張授業を行い、県内の18歳の選挙投票率を大きく上昇させた。こうした取り組みを全国に広げるプランを提案した。

準グランプリに輝いたのは、コロナで自己破産をした男性だった。再起を図り、農業と観光を結びつけるキャンプビジネスを提案した。破産したことをこの日はじめて人前で語り、新たな一歩を踏み出す姿は観客に感動を与えた。

今回、審査員を著名なファンドマネジャーである、さわかみ投信創業者の澤上篤人さん、レオス・キャピタルワークス代表の藤野英人さんにお願いした。楽屋で、昨今の金融経済について意見交換をした。

まもなく日銀総裁が交代するが、澤上さんは「これまで政府、日銀は金利や物価を力で抑えてきた。需要と供給で成り立つ経済の合理性とは明らかに反している。日銀の新総裁が打つ手はないだろう」とみている。藤野さんも「植田新総裁は名前が挙がった候補のなかではベストかもしれないが、総裁個人の力量だけで何かをできる状況ではない」と、厳しい見通しを示した。

日本の財政破綻回避に、国民はどうすべきなのか。澤上さんは「経済の原点は自助、自立。これができる人、できない人で今後は大きな差がつく」、藤野さんは「各企業や人生の戦略を『失望最小化』から『希望最大化』に切り替えるべきだろう」と指摘した。私としては、「部分最適」である自己の欲求を抑え、国全体や未来も含めた「全体最適」で思考する国民が増えることが重要だと思う。

さて、マスクの着用が個人の判断に委ねられるようになった。解放感にも後押しされ、ワタミグループの居酒屋も春の宴会の予約数が昨年の4倍と好調だ。居酒屋はコロナ禍で店舗が2割減ったといわれる。実感としてお客さんの戻りはコロナ前比で7割程度だが、生き残った店には2割分の上乗せがある状況だろう。

次なる財政危機は、コロナ禍以上に厳しいだろうが「生き残った企業」には大きなチャンスがある。日本の未来のためにも、強い起業家が求められる。大谷翔平のWBC世界一に沸いたが、日本の少年野球の裾野が広いように、起業家育成も国をあげて裾野を広くするべきだ。日本の起業家も世界一を目指してほしい。


【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より