「3・11」から12年になろうとしている。先日、委員を務める復興庁の復興推進委員会に怒りの提言書、「原発再稼働および復興特別所得税の税制改正に関する提言」を出した。

政府は震災後、エネルギー基本計画で「原発依存度を可能な限り低減する」と表明し続けた。にもかかわらず、岸田政権は「原発再稼働」「新たな原発の開発・建設」を打ち出した。原発事故で、退去や避難生活を余儀なくされた方はもちろん、風評被害に苦しむ農業・漁業関係者など、多くの被災者の感情を逆なでする暴挙である。

原発はひとたび事故が起きると人間が制御できないものという事実を直視すべきだ。ウクライナ侵攻の燃料価格高騰は口実に過ぎない。原発関連企業の利権や業界票は依然、影響力を持つ。事故の教訓を忘れ「善悪」ではなく「損得」優先の短絡的な政策を進めているとしか思えない。被災者に寄り添う復興推進委員会ならば、原発推進に反対の議論や意見をすべきだ。

また、昨年末に閣議決定された令和5年度税制改正大綱により、年度ごとの復興税収は半減することになった。防衛力強化のしわ寄せが被災者におよんだ税制改正だ。人口や納税を見ても被災地の復興は進んでいない。提言書にはこれら怒りの思いをまとめた。

しかし、この提言に対して「復興推進委員会は国の行う〝復興事業〟について調査・審議し、政府に対して提言を行うことが目的であり、〝議案〟として取り扱うことはできない」と、「黙殺」の回答があった。残念ながらこれまでも同委員会で、企業誘致のため被災地の法人税の減税や、被災地の中小企業育成のためのファンド設立などを提言しても「そういう意見を出す場ではない」と検討すらされなかった。

税は財務省、中小企業政策は経済産業省という役所の縦割りも旧態依然だ。議論はハコモノ建設などの「復旧」ばかりで、その費用対効果もあいまいだ。そもそも、前例や縦割りの打破を掲げた、菅義偉首相(当時)からの要請でこの委員を引き受けた。「思う存分、発言してほしい」との意向を受けたが、政権も変わり、状況もすっかり変わってしまったと感じ、今年度限りで復興委員を退任することにした。

委員を辞めるからといって、被災地への思いが変わるわけではない。ワタミは2021年、岩手県陸前高田市に「ワタミオーガニックランド」を開いた。有機農業や再生エネルギーなど、持続可能な社会を学べる施設である。今夏には建築家の隈研吾さんが設計した野外音楽堂もオープンする。今年は修学旅行生を中心に来場者1万人を見込んでいる。こうした「修学旅行の聖地」にプラスして、現在第2の柱を検討しているところだ。

いずれにしろ、私とワタミは今後「20年」陸前高田市に寄り添う気持ちでこの事業に取り組んでいる。同じように「20年」あれば原発ゼロは実現できる。問われているのは、政治家や官僚の「覚悟」の問題だ。


【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より