数年ぶりに、バングラデシュへ行ってきた。とにかくパワーのある国だ。道路は終日渋滞でクラクションは鳴り続け、車線変更など待っていたら、いつまでたっても入れてもらえない。まさにカオスなのだが、生きる力を感じ、刺激を受けた。

バングラデシュにはワタミが支援する公益財団「SAJ(スクールエイドジャパン)」が運営する「ナラヤンクル・ドリーム・モデル・スクール&カレッジ」がある。同校が創立10周年を迎え、記念式典で約5000人を前に講演した。学校を作ったきっかけはノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさんから「開発途上国のモデルになるような学校を作ってほしい」と相談されたことだ。

現在では生徒数1462人、教師106人。全生徒が「夢手帳」を使い、逆算計画で学び努力する「夢教育」を導入している。卒業生が医学部や難関国立大学に進学するようになり、「奇跡の学校」と呼ばれている。私が理事長兼校長を務める「郁文館夢学園」の姉妹校として、日本人教師を派遣し、貧しい家の子を受け入れる理念を貫いている。

ただ、道のりは平坦ではなかった。建設用地の取引ではだまされ、現地のマフィアには脅かされ・・・。それでも、課題や困難を解決し続けた。強調したいのは、同校を持続可能なモデルにすることだ。基本的な構造は、裕福な家庭の生徒の授業料で貧しい家の子の学費をまかなうというもの。現状ではSAJや郁文館などの資金援助で支えているが、今後は同国だけで完結する仕組みにしたい。

バングラデシュでは現地の企業と、外国人材派遣のジョイント・ベンチャー(合弁企業)も立ち上げた。すでにカンボジアでは、子会社「ワタミエージェント」を通じ外国人材の派遣事業を行っている。今回、バングラデシュからも技能実習生を送り出す態勢を整えた。

第一陣で、「日本で働きたい」という私の学校を卒業した7人と面談した。ひとりの若者は「ゆくゆくは国に戻りハンバーガーショップを経営したい」といっていた。「ワタミの外食のノウハウはすべて教えてあげる」とエールをおくった。この姿勢が重要だ。ワタミは外国人材を「ただの労働力にはしない」という理念を掲げ「夢応援型の人材派遣」を展開している。

アフターコロナで、外食業や観光業を中心に日本では人手不足が深刻化している。さらに、円安の進行により、外国人にとって日本は「あまり稼げない国」と化しつつある。日本で働く魅力は、高い技術やノウハウをしっかり学べ、夢実現に最適だと思ってもらうことが重要だ。政府要人から、開発途上国での教育支援を「なぜ、続けられるのか」と質問された。答えは「好きだから」しかない。若者にも、好きなことを夢にしてほしい。

教育や人材派遣を通じて、貧しい国の子が、夢を追い、奇跡を起こす。こうした「ワタミモデル」を世界に広げていくことが、私自身の夢だ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より