今回のサッカーワールドカップ、日本代表は夢を見せてくれた。チームプレーにおいても、最後は経営と同じで「個」と「個」の戦いが勝敗を左右すると感じた。堂安律選手のビッグマウスも、夢をかなえるには、大きく宣言することが大切だと多くの人が刺激を受けたはずだ。

ちょうど、日本対クロアチア戦の翌日、横浜銀行で講演を依頼され、若手行員向けに話をした。ワタミは創業以来、横浜銀行をメインバンクとしている。その昔、私はある銀行に「君は3店舗の器だから」と冷たく融資を断られた。悔しくて銀行を出た交差点の信号の色が、涙でにじんだことを覚えている。

「器」という抽象的な言葉で、人の夢を否定するものではない。しかし、その後に出会った横浜銀行の新宿支店長が、「君の夢に賭けるよ」と融資をしてくださり、居食屋「和民」の急拡大がはじまった。ワタミがこれまでしてきた雇用と納税や、ワタミのお店で起きたさまざまな出会い、ふれあい、やすらぎのドラマは、ひとりのバンカーの決断があったからだ。

私が参院議員になり、2013~15年、ワタミは赤字が続いて経営危機だった。その危機の時も、銀行の対応はさまざまであった。雨の日に傘を貸さない銀行もあれば、横浜銀行は、「メインバンクとしての責任を果たさせてもらう」と傘を差しだしてくれた。コロナ禍でも、横浜銀行初の資本性ローンを入れてもらった。

私自身、経営者として反省している点もある。1996年の店頭公開から右肩上がりが続く中、2013年まで17年間、実質無借金で銀行とは付き合っていなかったことだ。やはり企業は何があるかわからない。銀行という最大の「伴走者」は常に大事にすべきだ。

講演会では、若手行員に「銀行には企業の夢を現実化させる重要な使命がある。企業の夢を自分のものとして伴走してほしい。杓子定規の担保主義ではなく、企業の将来性をみてあげてほしい」と語った。30年前の横浜銀行新宿支店長は、ワタミに担保がない中で「事業計画」と「将来性」という「夢」にかけて融資をしてくれた。恩人には本当に感謝しかない。

参院議員時代から企業融資に関し、担保主義、連帯保証制度に疑義をとなえてきた。担保主義ではベンチャー企業は伸びない。連帯保証も家族や友情を壊す恐れがある。経営者の個人保証もなくすべきという意見もあるが、私はそれには反対だ。

経営者が覚悟を持ち、強くなることも必要だ。屋久島の屋久杉と一緒だ。屋久杉は花崗岩の上という根が張りにくい環境で一生懸命、水を求める、それが強さの源になっている。日本サッカー同様、日本の若き起業家にも強くなって、どんどん世界と戦ってほしい。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より