行動制限は行わないという方針から一転、政府は今月、新型コロナウイルスの感染「第8波」に備え、都道府県が外出自粛を要請する「対策強化宣言」や、医療が逼迫(ひっぱく)しそうな場合「医療非常事態宣言」を新設し、出勤の抑制や、帰省や旅行の自粛を求めるという。しかし、飲食店への営業自粛要請や、補償はしない方針だ。

海外からの外国人の入国制限もせず「全国旅行割」も行いながら、外出自粛要請を行うのは、アクセルとブレーキの両方を踏む愚策の極みだ。そもそも、夏場の南半球の流行状況から「第8波」が来ることが分かっていたはずだ。

医療体制の準備や法整備はいくらでもできたはずだ。重症化率や致死率からみて、もうコロナを、インフルエンザ同様の扱いにする時期に来ている。サッカーワールドカップの中継を見ても、世界はすでにアフターコロナだ。直近で海外の経営者たちと会う機会があったが、オーストラリアの経営者が来日し、日本人がマスクをしていることに驚いていた。

この「宣言」が出れば、飲食店の売り上げは確実に下がる。ワタミのフランチャイズオーナーなどと話しても、中小の飲食店は、経営が相当苦しい。「第8波」が前回の「第7波」レベルならば、3分の1程度は倒産に追い込まれるかもしれないと言う。そうなれば当然、どんな「宣言」が出ても、飲食店は必死に営業するだろう。
政府目標が、外出自粛なら飲食店の営業自粛もスジだ。それが一貫性だ。

ただ単に飲食店に補償はしたくないと言うのが本音だろう。ワタミの忘年会予約人数は昨年比「8倍」と現在好調だ。今年こそは、小規模でもいいから、親しい人との久しぶりの忘年会をしようという流れがある。やっとの思いで掴んだこの予約も「宣言」が出ればキャンセルが相次ぐことになるだろう。飲食業界を代表して「補償なき外出自粛は営業妨害だ」と改めて声をあげたい。

ちなみに習近平国家主席が「3期目入り」を果した中国の現地企業の経営者に聞くと、絶対的権力を国民に示し、情報把握も兼ね「ゼロコロナ政策」を行っているのではとみていた。こう見ると、アフターコロナに出遅れているのは、中途半端な日本と独裁的な中国の2カ国だけだ。

コロナ政策以外でも、脱炭素社会を掲げておきながら、走行距離課税を言いだすのも、おかしな政策だ。ガソリン車の税負担を重くするのがスジで、走行距離課税などと言い始めたらEVに乗るメリットがなくなる。政府目標に一貫性がない。岸田文雄首相の支持率が下がっているが、「中途半端」を支持する人はいないだろう。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より