飲食、観光業を中心に人手不足が深刻化している。各企業、時給アップを打ち出しているが、それでもアルバイトが集まらない。要因の一つに、パートや、アルバイトの主婦が意識する年収「103万円の壁」がある。

配偶者控除の場合、パート・アルバイトで働く妻の年収が103万円を超過すると、夫の課税所得に対する控除額が減少してしまう。結果的に一定以上働くと世帯の手取りが減るため、主婦を中心に年収103万円以上にならないよう仕事をセーブする人が多い。とくに年末のこの時期は年収の調整を意識する。

おかしな制度で、すぐに改めるべきだ。本来は、税の原点に返り働いた分だけ収入が増えるようにすべきである。政府は「賃上げ」や「女性活躍推進」を掲げているのに、実際は「働かない方が得」という仕組みがある。
そもそも、この制度は、高度経済成長期の主婦が家計の足しにパートに出ることを想定した設計だ。

今の時代に見直すのは当然だ。制度や政策を積み上げるから、こうした矛盾が生まれる。一度ゼロベースで制度を作り直す時期に来ている。国民ウケは悪いが、マイナンバーを活用し、資産や収入を把握することも必要だ。その上で、本当に困っている人や世帯に、セーフティーネットとして税金を使うべきだ。物価高対策のガソリン補助金も、運転手付きの高級車に乗っている車まで補助する必要はない。

今の日本の最大の問題は労働力不足にある。「103万円の壁」の改廃などは、労働力不足と賃上げの実現の両方が解決する。各企業も声を上げている。岸田文雄首相には、「聞く力」で改革を行ってほしい。

人手不足は正社員も同じだ。そうした中、ワタミの採用は、とにかくアルバイトからの中途入社が多い。最近は、ワタミの宅食の配達スタッフから正社員になる人も多い。現在のワタミの副社長をはじめ、役員や幹部も3分の1はアルバイト出身だ。

学歴も不問で、アルバイト時代の働きぶりが何よりの判断材料だ。原理原則として、今の社員を大事にすれば社員が集まると考えている。アルバイトは社員の姿を見ている。会社の理念も、実際の雰囲気にも直にふれ、自分も働きたいと思ってくれるのが理想の形だ。

創業して間もない頃は、リクルート会社にお金を出す余裕がなかった。アルバイトから皆社員になり、人柄、性格、家族構成まですべて把握し、社員は家族そのものだった。その頃は本当に楽しかった。ある時から、採用をリクルート会社に任せるようになってしまった。もちろん新卒採用にも意味があるが、今もう一度、原点に返っており、毎月の中途入社式は活況だ。

先日も配達スタッフから中途入社し、所長、マネージャー、支社長と、出世階段を駆け上がった男性社員と話した。力の源は、今は離れて暮らす娘さんだった。「娘のためにがんばる」と繰り返していた。頑張れば、頑張った分だけ報われる会社であり続けたい。国の制度もそうであってほしい。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より