「いきなり!ステーキ」で知られるペッパーフードサービス創業者の一瀬邦夫さんが先日、社長辞任の発表をした。

立ち食いで、おいしいステーキを安くというビジネスモデルは、一瀬さんの人生をかけた挑戦だ。社長辞任に対して、一時は成功したのにも関わらず、心ない意見や、勝手な意見が目立つ。挑戦した人にしか見えない景色があり、挑戦してもいない人が、とやかく言うことではない。

日本が先進国で最も起業家が少ないといわれる。成功してもねたまれ、失敗すればたたかれる。誰も経営者という存在を尊敬しない。欧米のように成功をたたえ、失敗しても挑戦を認める土壌があって、初めて若者も「経営」の良さに気づくはずだ。日本では、なりたい職業の上位がサラリーマンや公務員で、起業家がランクインしないことはさみしい。

一瀬さんとは個人的に親交もあり、先日も理事長を務める郁文館夢学園の特別授業に講師としてお招きしたばかりだ。「いきなり!ステーキ」はステーキの本場アメリカにまで出店した。失敗も認めているし、原点からの再チャレンジも誓っていた。そうした挑戦者の生き方を生徒たちに見せたかった。

一瀬さんとの最初の出会いは20年前、私の恩人、「つぼ八」の創業者、石井誠二さんの紹介で、私のところに箸を売りに来たことだった。アイデアマンで、「最近の若者は行儀が悪い」といい、磁石式で2本がくっつく仕組みの箸を「ぜひワタミで使ってほしい」とセールスしてきた。

一瀬さんのステーキ店「ペッパーランチ」ではスースリングと呼ばれる携帯式の鉄板を使っていたが、私も当時展開していたお好み焼き店で使用していた。「スースリングを使って大きくなったのは僕らだね」と笑顔で語っていた。一瀬さんがこれまで経営者としてきた納税や雇用はしっかりと評価すべきだ。

ワタミは公益財団法人「みんなの夢をかなえる会」を通じて、起業家の支援に力を入れている。実践経営塾「渡美塾」やソーシャルビジネスコンテスト「みんなの夢AWARD」を開催している。納税や雇用を生み出す会社を起業することは、明日の国を作り上げる。白いキャンバスに絵を描くように自己実現の最たるものだ。

この夏、開催された「第3回高校生みんなの夢AWARD」は起業家版の甲子園だ。予選を勝ち抜いた精鋭は高校生でありながら、しっかりとしたビジネスプランを練り上げている。

しかし、ビジネスは簡単に成功しない。心配点や矛盾を審査員長として指摘し、成功への後押しをする。ソフトバンク、HIS、ユニクロ。ワタミも含めベンチャーといわれた企業は、日本経済の「失われた30年」で成長してきた。決して追い風ではなかった。

強烈な信念をもった経営者の挑戦が、現実を変える。起業家や経営者を批判した先には何もない。みんなは幸せの量が「一定」だと思うからねたむのだろうか。決して一定ではなく、増やすことはできると私は思う。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より