コロナ前に比べて居酒屋は、客数、店数を総合的に計算すると約半分のマーケットになっている。そうした中、久しぶりに私が本気で居酒屋をプロデュースした。それが「こだわりのれん街」だ。昨年末に大井町に実験店となる1号店、5月末に仙川(東京都調布市)に2号店を出した。

将来的にはこの「こだわりのれん街」をワタミの居酒屋のメインブランドにする。「なんとなく」で立ち寄る従来の総合居酒屋は、今後なくなるだろう。目的客をいかに取り込むかだ。

この「こだわりのれん街」は、7つの専門店がひとつの店で楽しめる。まるでデパ地下だ。

「精肉店」「すし店」「焼鳥店」「加賀屋のおでん・鍋」「北海道の自社牧場スイーツ」など7つの専門店(のれん)が、それぞれのカラーで並ぶ。肉は鹿児島の和牛大手、すしは水産商社、焼鳥は大山どり業者、そして名旅館加賀屋と、トップセールスで本物を集めた。

私はこの店を「新総合居酒屋」と名付けた。その昔展開していた、和民は総合居酒屋でありながら、ひざつき接客や、冷凍品を使わず手作り料理にこだわるなど、業界初の果敢な挑戦を続け支持された。おかげさまで多くのお客さまに「懐かしい」「昔よく行った」と言っていただく。

今回、その「昭和の和民」の人気メニューを復刻させた「専門店」ものれんのひとつにいれた。ワタミが展開していた「唐変木(とうへんぼく)」のお好み焼きも完全に再現した。やはり祖業であり居酒屋には、こだわっていきたい。

私の身近でも、閉店、倒産が増えてきた。ワタミのOBだった、若い飲食店経営者も、連絡がつかず夜逃げ状態だ。経営者として挑戦し、結果として負けてしまうこともある。破産を選択することは「卑怯(ひきょう)」ではない。当然の権利だ。でも、夜逃げは再チャレンジの道が遠のく。

「お金を失っても、信用は失ってはいけない」

私が主宰する経営塾「渡美塾」の事務局の男性は、10年前に10億円の負債を抱えて、倒産と自己破産を経験した。「上場を目指し、無理な拡大をする中で人材が育たなかった」ことを理由に挙げた。拡大戦略で人材をおろそかにすると必ず失敗する。その彼は、つらかったが、夜逃げはせず、債権者集会で謝り続けたという。10年たった今、しっかりと新しい夢を追っている。

私の父は会社を清算する道を選んだ。大正生まれで自己破産は選ばず、30年かけて返済した。父の生き方は否定しないが、もし今、父に言葉をかけられるなら「意地を張らないでほしい」と、そう言いたい気持ちもある。

居酒屋のマーケットが半分になっても、ワタミはその中で一番を目指す。そのためには、一番お客さまを思い、一番果敢に挑戦する。38年前ワタミ一号店の記念すべき最初のお客さまは、夕刊フジを片手に持たれていた。あの光景は忘れられない。「こだわりのれん街」、ぜひ足を運んでいただきたい。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より