岸田文雄首相は今月上旬、ロンドンの金融街シティーで「安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン・キシダ(岸田に投資せよ)」と演説した。

当初は、金融所得課税の強化の話もしていた岸田首相だが、投資家を優遇していく方向に一転し、矛盾が指摘されているが、私も投資の優遇には賛成だ。

急激な円安とインフレが進む中、元モルガン銀行東京支店長で伝説のディーラーと呼ばれた藤巻健史氏とニッポン放送で意見交換した。

私は、普通の人が生活できるぎりぎりの7%のインフレが10年間続けば、ちょうど200%になり、国の現在の借金がGDP(国内総生産)比で実質的に半分になる計算で、国の立て直しができると意見した。

藤巻さんは「最高のシナリオだと思うが」と前置きした上で、インフレのコントロールは難しく、異次元の金融緩和のツケで、円安ハイパーインフレは避けられないと主張する。

日銀は現在、国債を買い支える「財政ファイナンス」や、ETF(上場投資信託)の買い入れを続けている。インフレをコントロールするため、アメリカのように日本も金利を引き上げたら、日銀は大量に国債を抱え込んでおり債務超過になる。「日銀は簿価会計なので破綻しない」との論理も聞かれるが。時価会計が常識の世界には通用しないと藤巻氏は指摘する。

日銀が、国債やETFを売却するのも難しい状態にある。ただ、私なりに出口を提言したい。

「相続税ゼロ」を組み合わせ、国民の金融資産を動かす解決策を考えてみた。国民全体で約1092兆円の現預金を持つとされる。そのうち、相続税対象となっているのは約60%、665兆円と試算した。時限的に10年間、国内株式や国内債券に対する相続税をゼロにし、日銀が購入保有する国債や、約50兆円あるETFを、この人たちに実質、買ってもらう仕組みを作る。

相続税がゼロになるなら、購入する側にもメリットが大きい。実現すれば、日銀は少なくとも10年間は国債を買わなくて済む。財務省は相続税ゼロに批判的かもしれないが、相続税収は年間2兆円程度であり、財政破綻の回避を考えればメリットの方が大きい。

新NISAも活用し、それ以外の人の金融資産を動かすこともできる。NISAで米国株のインデックスファンドに投資する人も多いが、あくまでも対象は国内の株式に限るべきだ。細かい課題があるのは承知だが、大枠でこの制度ができれば、0・25%の国債金利を守りつつ、1ドル=250~300円でも、この国は財政破綻やハイパーインフレを免れる。

投資家は本来、リターンや利回りしか考えていない。しかし、ワタミはこれまで理念で投資を決めてきた。今こそ、社会にどう影響を与えるかという投資基準で考え欲しい。高齢者が、貯金から国債を購入して、孫の世代に借金を残さない国にしてやろうと立ち上がるときではないか。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より