先月28日に円相場が1ドル=131円台に下落し、円安が加速している。日銀は新発10年債を0・25%の利回りで、無制限に買い取る「指し値オペ」の実施を発表した。当然、金利を引き上げる米国との差が広がり、今後も円安・ドル高が加速する。

この指し値オペに対して、4月27日の日本経済新聞朝刊に「日銀が上限とする『0・25%程度』を前に海外勢が国債売りを膨らませている」との記事があった。「2021年にオーストラリアで同様の売りを浴びせ、国債の利回り目標を撤廃させるのに成功した経験も外国人投資家を勢いづかせている」という。

今、どんどんカラ売りをして、国債が安くなれば買い戻す、対する日銀は買い支えし続けるしかないが、いずれ限界が来る。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁の強引な政策が、海外のヘッジファンドの標的とされつつある。危険であり本来なら1面級の記事だ。

近著『インフレ不可避の世界 今すぐ大事な資産を守りなさい』(明日香出版社)を出したさわかみファンド創業者の澤上篤人さんは、国債や、上場投資信託(ETF)の買い入れなど、日銀の緩和政策について「経済的合理性の鉄槌(てっつい)が下される」と批判し、中央銀行の信頼失墜も「当然だ」と指摘する。「金融バブル」は2年程度で100%崩壊するという。

政府は6・5兆円の景気対策で物価上昇を抑えようとする一方、日銀は物価を上げる政策を継続する。政府に対し、日銀が違う政策を始めており、中央銀行の役目を果たしていない。

米連邦準備制度理事会(FRB)は5月3、4の両日の連邦市場公開委員会(FOMC)で政策金利を通常の2倍の0・5%引き上げることを支持する姿勢を示した。

元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史さんは、ドル・円の動向を決める2大要因は「経常収支動向と日米金利差」だとし、朝日新聞などで今後1ドル=400円もあり得ると警告する。藤巻さんは、異次元の金融緩和で、国債を実質日銀が引き受ける「財政ファイナンス」を行った結果、金利が上昇した瞬間に「日銀が債務超過に陥る」と一番の問題点を指摘する。

金利を上げれば日銀が破綻する、金利を抑えれば円安が加速する、完全な袋小路である。円安・ドル高の影響下では、日銀の為替介入も難しい。保有する米国債をドルにして円を買う。米国債を日本が売ると、さらに金利差が広がるジレンマが生じる。

ワタミは1ドル=130円までの円安を織り込んで経営を行ってきたが当然、修正する。足元うれしいことに、ゴールデンウイークのワタミ外食各店は、3年ぶりの回復傾向となった。

一方、アルバイトなどの人手不足が深刻化している。円安も人手不足も、問題は「先送りせず」に迅速に手を打つ、それが経営だ。

私が自民党の財務金融部会で、日銀の出口戦略を話し合うべきだと強く提言をしたが、この国は「先送り」という決断をした。しかし、いよいよ「先送り」は限界に近づいている。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より