今月11日で東日本大震災から11年が経過した。11年前、私は東京都知事選に出馬を表明していた。

その時選挙を戦った、石原慎太郎元都知事が先月亡くなられた。石原さんは当初不出馬表明をしていたが、3月11日の地震発生直前に一転して出馬表明し、驚いたことを覚えている。

石原さんは、自らがよいと思ったことを徹底して実行に移される方だった。ディーゼル車の排ガス規制や、羽田空港の国際ハブ空港化、「複式簿記」「発生主義」を取り入れた都の会計制度などは、良い改革だった。東京都は国に依存せずに経営できる唯一の自治体で、一連の改革も奏功し、東京の財政を立て直す大きな功績を残されたと思う。発信力も大きかった。

都知事選後、ゴルフ場でお会いした時、真意は置いといて「本当は、渡邉さんに任せようと思っていたんだよ」と、あのニコリとした笑顔で声をかけていただいた。「本当に人に愛される方だ」と感じた。

私は「優良企業」である東京都はアジアで香港やシンガポールの仕事をとって、金融のハブとして地位を確立し、アクセルを吹かせれば、日本を牽引(けんいん)し、財政破綻にも備えることができると考えていた。

今回のコロナ禍や東京五輪・パラリンピックの開催で東京都の強靭(きょうじん)な財政でさえ、貯金は失われている。当時は震災報道で、テレビ討論会が行われず悔しい思いをした。あの時に戻れるならば、石原さんと都政について議論してみたい。

政府の復興推進委員として1年近く提言を続けてきた。「復旧」は終わっても「復興」はほとんど終わっていないことをしっかり認識すべきだと思う。

本来は復興の定義づけも大事で、本当の復興を「人口や国内総生産、納税額、子供の数が戻る」など定義づけた上で、施策を打つべきだと思うが、巨大な防潮堤など、ただ予算を使うだけに見える。数百億円の予算を使うなら、街を元気にする創造性を働かせなければならない。被災地は高齢化も深刻で、東京ひいては日本の将来の縮図も見える。街を経営する視点が欠けている。

岩手県陸前高田市に昨年オープンしたワタミオーガニックランドは、被災地を本当の意味で経営する視点で始めた。現状はコロナで観光客の苦戦が続くが、津波伝承館とあわせて、命と農業を学ぶ場所として、今後は日本一、修学旅行生が来る場所としての計画を進める。

地元の子供たち向けに芝生に遊具を設営したり、オートキャンプ場、夏にはビアガーデンなども考えている。ワインの製造や、太陽光エネルギーの発電なども始まった。いかに他の事業を巻き込みながら経営を成立させていくかが、ポイントになる。

東京都の経営より、被災地の経営。それが私の天命だと今は感じている。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より