自民党総裁選(29日投開票)の各候補の政策が出そろった。

まず、岸田文雄前政調会長が昨秋に出版した『岸田ビジョン』(講談社)に目を通すと、日本円や国債の暴落に備え、「『財政健全化』に向かっているということを、内外に示しつづける必要がある」とする一方、「現在の100兆円を超す歳出を無理に減らすということではありません」と、具体的な国家経営が見えてこない。

次に、河野太郎行政改革担当相が出版した『日本を前に進める』(PHP新書)を手にとった。感染症対応を自然災害と並べて論じ、「避難所になるような公共施設」に「患者を収容できるよう」な整備をするなど準備の必要性を説く。ただ、コロナ対策が後手に回った理由として指摘される厚生労働省と医師会、国と地方自治体との関係の弊害といった本当の問題点には触れられていない。

遠慮せず、国民の命のために縦割りや既得権と戦ってほしい。私は議員時代、党の部会で脱原発を訴えてきた。河野さんも当時は明確に、東京電力に血税を入れることに反対していた。「安全が確認された原発を再稼働していく」と脱原発の主張を軟化させたことは残念に感じる。国家経営には信念や理念が大事だ。

高市早苗前総務相は現実的には当選の可能性が低いので、ロックダウン(都市封鎖)をはじめ、唯一、大胆な主張をしている。保守層をとことん取り込み、総裁選後に一定の存在感を見せる戦略に感じる。野田聖子幹事長代行に関してはご主人に関する報道を懸念する声を聞く。

岸田氏ならば、長期政権が見込まれるが、慣習重視の「江戸城」的な自民党の体質に変化はないだろう。一方、河野氏ならば現実的なマネジメント力がみえてこないため短命だと不安視する声もある。

コロナは、今後2~3年の長期戦を覚悟しなければならない。制限緩和策と国がどう向き合うかを明示すべきだ。補償をやめれば、この秋にも飲食店の倒産ラッシュがおこる。

一方、厚遇の補償を続けるのも財政上問題だ。休業補償や事業支援は、事業者が経営維持できるギリギリのラインを再設定したうえで、細かい制度に見直すべきだ。今こそ、コロナ専用病院の設置や医師を派遣できる法改正に取り組み、治療薬の開発を国家プロジェクトにし、指定感染症5類への引き下げを目標に掲げるべきだ。

そして何より、アベノミクスとコロナの財政出動の後始末をどうするかだ。借金体質はいずれ限界が来る。財政危機はコロナより国民を苦しめる可能性がある。

総理総裁は国の最高経営者だ。経営者は、数字に強く、具体的で、信念理念が求められる。総裁候補への質問はたった一つ、「この国は財政破綻しませんか」だ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より