「外食産業60年史」という企画が雑誌「月刊食堂」で組まれている。約30年前の外食企業の経営者のインタビューがそのまま再録されていて、まるでタイムマーシンに乗った気分だ。横川竟氏(すかいらーく共同創業者)、大河原伸介氏(日本ケンタッキー・フライドチキン三代目社長)、田渕道行氏(ほっかほっか亭)ら親交のある方もいる、一時代を築いた素敵なフロントランナーたちだ。私も再来月号で登場する。

しかし、創業者の資本のままに残っている企業はほとんどない。変化と競争の激しい外食業界で生き残り続ける難しさを感じる。当時の夢や戦略を語っているが、今読み返すと、成功や失敗の答え合わせができるところが面白い。

成功法則は、ほぼ共通している。QSC(商品クオリティ・サービス・クリンリネス)や、仕入れ力、人材教育といった原理原則をしっかり守っていることだ。すべて今にも通じる。一方で、一度成功しても成功を維持する方が難しい。なかには出店を急ぎすぎ人材が育たなかった企業や、新業態立ち上げの困難さが目立つ。

その昔、ケンタッキーも鶏肉から派生し、やきとり惣菜店を試みたが、結果を出せなかった。ワタミも居酒屋から焼肉に主力事業を転換した。「家族団らん」を取り込むことを得意とした和民の世界観は変えていない。このほか、オーナーの株式が不安定になった企業や、不動産はじめ本業以外の投資を試みた企業も生き残っていない。

ワタミにも不動産投資など、たくさんの話が持ち込まれたが、「額に汗しない事業はしない」と明確に企業理念に記している。短期的利益より長期的人間性向上を掲げる。

さらに成功した後、自分が経営する店で食事をせず、高級店ばかりで食事をするようになり経営から去った人もいる。オーナーが生活レベルを一定に保つことは重要だ。特に外食経営者は、お客様目線で居続けることだ。この視点を崩しては商品や価格に悪影響を与える。

コロナで飲食店は、戦後最大の危機に直面している。しかし30年以上生き残って来た企業から学ぶべきことはある。コロナを生き残る外食企業は原理原則を守り、変化対応し続ける企業だ。

ケンタッキー一強だった日本のフライドチキン業界にワタミは世界ブランド「bb.qオリーブチキン」で挑戦する。大ヒットドラマ「愛の不時着」に出てくるあのフライドチキンだ。オリーブオイルであげた健康志向のフライドチキンというのが最大の差別化だ。先日オープンした二子玉川店も女性を中心に好評だ。

かつてケンタッキーの大河原さんは「フライドチキンはあってもなくてもいい。定期的に買ってもらえるよう販売促進をしないといけない。競合が出れば叩き潰すべきだ」と言っていた。その教訓をしっかり意識し、レジェンドに胸を借りるつもりで勝負をしたい。雑誌の企画のように30年後には勝負の答えが出ている。わくわくしかない。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より