東京都の感染者数が増加傾向だ。企業へはテレワークを指示しながら、都議選の演説は相変わらず駅前で行っていた。人流を抑制するという総論は賛成、しかし自分たちの当選のための街頭演説はいつも通り。そんな「総論賛成各論反対」。これが今の政治の現実だ。

ワタミは6月27日に定時株主総会を開催した。コロナ禍で映像配信を今年も余儀なくされたが、以前は両国国技館で開催し、私自らお見送りに立ち、すべてのご意見に耳を傾けていた。株主は同志であり理解を深める場だ。

株主総会では「5年後のワタミはこうなる」と将来の新聞記事をつくり発表した。夢はカラーで描くことで現実に近づく。政策投資銀行から120億円の優先株出資を受け入れることも正式承認された。この資金で、全社員の雇用を守り、焼肉店、から揚げ店を大量出店していく。V字回復へ「反転攻勢」の態勢が整った。

創業オーナーは、目先の利益に捉われず、長期的ビジョンで迅速に手を打つことができ、大胆なリスクをとることができる。コロナ禍でもオーナー経営の企業とは、提携や大型商談が早く進んだ。皆の意見を聞きながら「衆議独裁」、自分を利としない「無私の独裁」が最高の組織のあるべき姿だ。

先ごろ、私はITコンサルティング会社「ITbook」の社外取締役を引き受けた。25年前の上場時に証券会社の社長としてお世話になった恩田饒名誉会長への恩返しと、ITの世界を勉強したいと思ったためだ。社外役員の役割は、客観性を持った経営の原理原則に沿って発言することだと思う。私も原理原則を言い続けるが、経営の判断にまで口を出すつもりはない。

時に原理原則やあるべき姿に立ち返ることは重要だ。ワタミ株主総会では、昨今金券ショップで出回るのがあたり前となった株主優待券の制度を改めた。優待券はそもそも、株主がお店に足を運び、ご意見を賜るのが本来の目的でスタートさせた。ショップで換金されるのが目的ではない。本来の目的に即した形で優待券を継続し、配当は配当で、しっかり株主に貢献する、そうした基本姿勢を打ち出した。

総論賛成各論反対もあるが、誠実にあるべき姿への理解を求める。株主優待券で株価を維持する企業もあるが本当の姿とは思わない。

明治期に書かれた渋沢栄一の『論語と算盤』も変化の中での経営のあるべき姿を説いている。論語は「忠恕」(ちゅうじょ)の道を説く。企業はいかに誠実になれるか、道徳と利益を両立できる企業こそコロナ後に生き残っていく。

政治家を卒業して2年になる。ビジネスには商品のように「実」があるが、政治は空気や人気など目に見えない「気」がすべてを左右する。実業の世界の方が私にはあっている。総論賛成なら各論までトドメをさし現実を変えていく。それが改革であり挑戦だ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より