緊急事態宣言が解除され、条件つきで酒類提供も解禁されたが、自治体ごとの条件の違いに大きな不満を感じる。東京都は「2人まで」で滞在時間は「90分以内」、埼玉県は「1人まで」滞在時間は「90分」で同居家族は認める、神奈川県は「1組4人まで」「原則90分以内」。

こんなにバラつきが出るのはおかしく、根拠があいまいな証拠だ。それぞれの知事のただの自己主張にしかみえず、とってつけた感がひどい。「特措法に基づき必要な措置等を行う」と法律にはあるが、その「必要な措置」を決める、役人と知事の裁量が広すぎ不透明すぎる。

そもそも、緊急事態宣言中から、多くの飲食店が要請を守らず酒類提供をしていた。私も金曜日に都内の繁華街を視察したが、ほとんどの店が通常営業し満席だった。そうした中、さらに今回ルールを細かくしたのはナンセンスだ。

居酒屋にとっては、4人で来店されても「2人ずつ別々だから」と言われたら断りようがない。実効性がある政策をおこなう上でも、要請を出す前に飲食店側に意見を聞くなど手続きを踏むべきだ。現在、守らない店が繁盛し、守る店の経営が苦しくなっている。さらに東京都の感染者数は増加の日もあり、愚策が明確になっている。

先ごろ、スーパーコンピューターの「富岳」がデルタ株を想定した感染リスクの計算を行ったそうだが、こうしたデータを元に「アクリル板を置いたうえで何メートルの間隔を空ければ、デルタ株でも感染リスクは低下する」そうした科学的なエビデンスに基づいた施策を出してほしい。誰が決めたかも分からない、あいまいな施策では、たがが外れてしまう。

私が繰り返し主張している、私権を制限しない施策にも力を入れるべきだ。PCR検査を受けて陰性だった人は1週間以内は経済活動を自由にする、ワクチン接種完了者には積極的に外出を認めるなど、経済活動再開に向けて前向きなことに本腰をいれるべきだ。

菅義偉首相が東京五輪・パラリンピックの開催に際して「私が責任を持って行う」と語った。「責任は自分がとる」と、リーダーが発する言葉には重みがある。

しかし、東京都の「2人まで」「90分以内」を考えた人は誰なのか。責任は誰がとるのか。効果がない都の要請を、ほとんどの店が守っていない光景を見ると「この国は壊れた」と感じる。飲食店の資金繰りが圧迫しているのも原因だ。渋沢栄一は「道徳と経済」を説いたが、東京は今「モラル」も「経済」も失っている。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より