政府分科会の尾身茂会長が「今のパンデミックで普通はやらない」と東京五輪開催に否定的な発言を繰り返している。飲食店の立場からすると、営業時間短縮や、酒類提供禁止など、これまで分科会の意見を丸呑みさせられてきた。五輪だけが分科会の意見を跳ねのけるのは矛盾だ。

守ってきた側からすれば、今までの意見の重みに疑問符がつく。「自主研究」と軽視すれば今後、国民も分科会を軽視し、飲食店の「闇営業」を増やすきっかけになりかねない。緊急事態宣言や蔓延(まんえん)防止等重点措置の制度も有名無実になる。

私はこれまで飲食店の時間制限にこだわる分科会の意見を批判してきた。世界を例にしても「時間」でなく「空間」を重要視している。夜8時から感染が拡大するというエビデンスが示されたこともない。ラーメン店のカウンターのひとり飲みで感染が増えるとも思えない。結果、公園飲みが増えた実情もある。当然、対策はすべて「ゼロか100」ではない。

私が首相なら分科会に参考意見を出させて、リスク評価のうえで対応を提示し、専門家に再度お墨付きをもらう。仮に対策の効果が十分でなく、8割程度であっても前には進められる。本来、分科会は専門家としてロックダウン(都市封鎖)や、大規模PCR検査の徹底を強く意見すべきであった。

なぜ尾身会長はこれまでそうした世界の政策の事例を意見しなかったのか。その当時は、官僚のコントロール下にある程度あったのではないかと邪推もしたくなる。

そもそも政策決定に関わる専門家や民間委員は、官僚がお膳立てしていることは私も民間委員や参院議員の経験から肌身に感じている。民間委員には既定の土台に沿った議論が求められる。外れた意見を出せば、議事録の目立たない箇所に掲載されて終わるのみだ。

私も過去、民間委員として教育改革を提言してきたが、既定路線から外れて、学校設立の自由化について意見をし続け、退任に至った経緯がある。

先週、政府の復興推進委員会の初会合に出席した。今回は、既定路線がない中で、有意義な発言をしていけそうで期待している。「陸前高田ワタミオーガニックランド」を実際に経営する視点で、被災地の経済復興、地方創生を提言していく。税制をもって人や企業を呼び込まないと復興はない。所得税の減税や、相続税をゼロにするなどして、富裕層を被災地に呼び込むべきである。

専門家も民間委員も、本来は、規制路線ありきでなく、賛成論者と反対論者双方で討論させ、官僚は両方の意見を聞いた上で、最後は政治が判断し国民の審判を受ける、それがあるべき姿だ。五輪に関しては、尾身会長の意見でなく、都議選と衆院選のダブル選挙にして、民意に問うのが一番だ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より