参院議員時代から始めたこの連載も100回の節目を迎えた。議員時代から「経営者目線」の提言でこの国を良くしたいと思ってきた。この連載でそれを続けていきたい。

100回を記念して今回は、私の最愛の愛読書「論語」について取り上げたい。『論語』は、2500年前の孔子と弟子の対話を収めている。高校時代から愛読しており、当時から持つ文庫は、ぼろぼろになった。紀元前から人間は何も変わっていないことに気づかされる。私なりに孔子の『論語』を解説した『使う!論語』(三笠書房)という本も出版している。

私が校長を務める郁文館中学で、この春から1年生に自ら授業を始めた。実践的教材として『日経新聞』、普遍的教材とした『論語』を使い毎回授業を行っている。

最近授業で教えた章句に、「吾十有五にして学を志す」がある。孔子は15歳で学問で身を立てようと決意したが、若くして将来の方向性を決めることは良いことだ。単にいい進学先を目指すのではなく、具体的な職業までシミュレーションすれば、夢の追いかけ方も、学びの姿勢も変わる。生徒たちに「13歳。残り2年で今後どう身を立てるか考えなさい」と伝えた。

孔子の言葉は、政治に対する提言もあるが、現代の経営者目線でも示唆に富む内容も多い。仕事を意識する中で大切にする章句は、「これを知る者は、これを好むに如(し)かず。これを好む者は、これを楽しむに如かず」という章句だ。好きで仕事をしなければならないし、最終的には楽しまなければならない。私のモットーだ。

「葉公、政を問う。子曰(いわ)く、近き者説べば、遠き者来らん」は政治のリーダーに対する警句で、自分の国民を大切にすることで、噂を聞きつけ他の国の民も来たがるとの意味だ。ワタミもコロナ禍で休業する店舗の従業員に9割の休業補償を決めた。目の前の社員を大切にすれば、人も自然に集まってくる。

若手経営者に贈りたい言葉は、「君子は和して同ぜず。小人は同じて和せず」。大人物は人と調和しながらも付和雷同しない。小人物はその逆だという。本当の仲間は「迎合」からは生まれない。「なあなあ」になる関係を戒めている。

ただ、論語の中でも、他の意見を聞き入れる「六十にして、耳順う」は、私自身もなかなか実践できない。しかし、意識するきっかけにはなる。

緊急事態宣言の再発令で世の中は大いに混乱している。感染者数を抑える目標や対策は明らかに不十分だ。目標を遠くに見て逆算する「人、遠き慮(おもんぱか)りなければ、必ず近き憂いあり」。将来から、自分をみる重要性。今、この国がいちばん学ぶべき章句であろう。論語は人生のあらゆる場面で役立つ。大型連休、静かに家で「論語」と向き合うことをお勧めしたい。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より