大阪維新の会が進めた大阪都構想の住民投票が否決された。私は過去に「大阪府・市」の特別顧問も依頼され、身を切る改革には賛成で、ぜひ二重行政は解消してほしいと思っていた。都構想どころか、その先の「道州制」にも賛成だ。コストパフォーマンスを意識する経営者ほど「二重行政の無駄」に目がいく。

大阪では、政令指定都市である大阪市がほとんどの業務を管轄し、府の権限は警察権など一部に限られる中、府議会議員の定数ばかりが多い。大阪府などが出資した「りんくうゲートタワービル」と大阪市などが出資した「大阪ワールドトレードセンタービルディング」(現・大阪府咲洲庁舎)などの類似した、事実上機能しなかったハコモノもある。

市の年間収入約8600億円のうち、2000億円を府に移す内容で、市民に負担が生じるわけではない。これまで1市で実施されてきた住民サービスも4区分割できめ細かくできる提案だ。

定数減を恐れる大阪府議や、既得権を失い被害を受ける人たちが反対する理由はわかる。しかし、最終盤では「市4分割でコスト218億円増」との報道が反対派の論拠になった。市は否定したが、市民もメディアの見出しに踊らされた。仮に200億円要しても、現状維持における負担の比ではない。

組織を放置すれば、縦割りや既得権が増す。人間の弱さが自分の領域を守ることにつながり、全体最適は二の次になる。

ワタミでも過去、縦割りがあった。外食事業と宅食事業が縦割りで、2台の物流トラックが同じ方向に走っていた。即、外食と宅食を同じフロアに集約し、会社全体の効率を意識する社長を中央に配置し、改革に取り組んだ。

議員時代は、国の縦割りが散々目についた。最たる例が、子供を預けたいという同じサービスでも「保育園」と「幼稚園」では、厚生労働省と文部科学省が、免許制度をはじめ、縦割りでせめぎ合い、それぞれの主張を続ける。省庁の権益や、族議員の票田が壁になる。菅義偉政権では、河野太郎行政改革担当相が、「規制改革・行政改革ホットライン」(縦割り110番)を設置した。

全体最適の発想はトップでなければ分からない。官邸主導のリーダーシップに大いに期待したい。大義は「最大多数の幸せ」と「コストパフォーマンス」だ。

関西で圧倒的な支持を集める維新の会をもってしても、「当たり前の改革」が達成できなかった。二重行政や縦割りをそのままにしていたら、財政破綻の道に一直線だと危惧する。強調したいのは、この一言に尽きる、「無尽蔵に財源があるわけでない」。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より