菅義偉政権発足から約1カ月。「脱はんこ」や「携帯電話の値下げ」等、分かりやすいところから攻めており、とても良い滑り出しに感じる。国民全体にプラスになる「全体最適」の視点で、ゼロベースで改革を進めてほしい。
「脱はんこ」だが、社内の申請手続や、稟議(りんぎ)などでは不要で、ワタミでもデジタル押印を導入している。一方、押印には実務以上に「気合」の側面も大きい。銀行の融資や契約、結婚など儀式的、象徴的な面では残せばいい。
ほかに、オンライン診療の恒久化もいい流れだ。長年、医師会が反対していたが、国民全体にとっては絶対プラスだ。
もう一つ、ぜひ取り組んでほしいと思うのが農業改革だ。政府の規制改革推進会議で、農業分野で企業の農地取得に関する要件が問題視されたという。現在は農業関係者以外の議決権が2分の1未満と決められており、実質的に企業は農地取得ができず、借りるしかない。背景には当然、農協の業界「票」がある。
例えば、企業が堆肥を入れて有機の農地を育てると、価値が上がる。ただ、借りた土地への投資になれば、企業も意欲が出ない。農家の高齢化と後継者不足は深刻だ。この国の農業を「全体」で考え、企業が農業に参入しやすい環境を整備すべきだ。
規制改革の難しさは、参院議員時代の経験からも思い起こされる。議員1年目の党部会で、タクシーの台数を規制する法案が議論された。規制改革に反する流れだと意見を述べると、やじが飛んだ。ウーバー参入などの「全体最適」の前に、タクシー業界の「票」が立ちはだかる。
規制改革の実現には、既得権層以上に無党派層が「改革を支援する」必要がある。
そのためには投票率を上げることも重要だ。政府が進めるデジタル庁だが、ぜひ選挙の「ネット投票」を目指してほしい。シンガポールやオーストラリアのように投票を棄権したら、ペナルティーが課せられるルールも検討すべきだ。
コロナ禍ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むが、ワタミは先日、東京証券取引所の「DX注目銘柄」に外食産業として今回唯一選ばれた。仕事の標準化やペーパーレス化、データ管理による食品ロス削減などに大きな効果が出ている。
専任のIT戦略本部長の下、さらなる改革を進めている。デジタル化のデータを用いて、独自の6次産業モデルを改善し続けることは100年企業に向け大きな財産となる。新業態「焼肉の和民」でも最新技術を駆使した配膳ロボットで生産性を高めている。
一方、人の温かみも大事にしたい。私自身、スマホでは孫の動画を見るのが何よりの楽しみだ。「笑顔」に勝るものはない。
【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より